この前の記事で「今年は残暑が長く」と書いていたのに、季節はすっかり冬になり、12月上旬現在、コートをいつ出すか迷いながら日々を過ごしている。こんな時期に和酒バルに行くと、少し重めの日本酒を熱燗で呑むことが多いが、そこで大事になってくるのはおつまみ選び。夏酒ならキュウリに味噌でも十分いけるけど、お酒が重いと軽い肴では負けてしまう。
こんな時期にはどんな肴なら間違いないか。店で頼んだ鉄板の二品をご紹介していく。
目次
【本日のお酒】
大阪 秋鹿酒造「秋鹿 へのへのもへじ」
秋鹿酒造といえば、大阪を代表する蔵元のひとつ。自営田で山田錦を栽培して良質な酒米を確保し、冬は酒造り、夏は米作りと「農醸一貫」を行うドメーヌで有名だ。
冷酒も良いけど、やはり秋鹿と言ったら燗酒だ。スッと鼻腔を抜ける柑橘系に近い香りが酸味をしっかり予感させる。口に含んでみると、酸味が前に前に出ながらも、思いの外サラっとしている。この深いコクが得意でない人がいることも十分に知りつつ、これも日本酒の味わいの一面だよな、と思いながら口の中でググっと盛り上がる旨味と甘みを楽しんでいく。
【本日の肴①】
濃い酒には意外とビーフシチューが合う。
深みのあるソースに漬かった柔らかい牛肉が、じっくり煮込まれた野菜と絶妙な調和を奏で、口の中で濃厚な風味を感じる。ローズマリーやタイムを入れているのか聞かなかったけど、若干の香辛料っぽさを感じるのも良い。ジューシーな肉と野菜をバゲットに乗せて頬張った後に日本酒を呑むと、口の中にコクが残っているのでどっしりしたお酒でも負けず、むしろ酒の甘みが引き立つ。
【本日の肴②】
冬の鉄板中の鉄板、おでん。
冬の風物詩、おでんの温かさは口に運ぶだけで心地よい。具の食感と旨味が、出汁との調和で素晴らしい味わいに昇華される。
その中でもやはり大根が好き。優しい甘みを含み、煮込まれることでしっとりと柔らかくなった大根を一口噛むたび、風味が広がり、寒さを忘れさせ、温かい幸福感を運んでくる。
当たり前だけど、熱燗の日本酒は相性抜群。おでんの優しい味わいの後に、米の旨味たっぷりの日本酒を呑むのは、もはやおでんをおかずにご飯を食べているのに近いと言っても過言ではない。日本酒を呑むと今度はおでんが食べたくなる……という無限ループに陥ってしまうこと間違いなし。
ちなみに、こんな風に出汁割りもできる(日本酒+おでん出汁)。出汁の深い旨味と香りが、日本酒の華やかな風味と調和し、口の中で優雅な味わいになっていく。温かいおでんの出汁が冷えた身体をほぐし、日本酒のぬくもりが心を包み込む。まさに冬の贅沢な楽しみ。寒い日にぴったりの和の風情を楽しめる。
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寒い冬には、温まる肴と熱いお酒。どちらも楽しんでいるうちに、そろそろ新酒も出回るだろう。日本酒好きは一年中楽しみがあるな、と思いながら、今年が暮れていく。