これを書いている4月中旬、「春酒の季節だ」と書いても実はもう遅い。日本酒の春酒は時期が早く、3月下旬には各酒蔵が春酒を用意してしまっている。桜の開花に合わせているのかもしれないが、まもなく販売を終えるものも出てくるため、あっという間に過ぎ去ってしまうイメージだ。
今春飲んだ中でとくにインパクトが強かったのは、春らしいにごり酒。2種類見ていこう。
目次
【1杯目】宮城 新澤醸造店 「あたごのまつ はるこい」
「究極の食中酒」とのコンセプトで生まれた「伯楽星」で知られる宮城の新澤醸造店のもう一つのブランドが「愛宕の松」だ。東日本大震災では大きな被害を受け、趣のある赤瓦の蔵はやむなく取り壊しとなったものの、今は山形県との県境に近い場所に蔵を移転して製造している。
注いだ瞬間、いちごや桃を思わせる甘酸っぱい香りが広がる。口当たりはしゅわしゅわ弾けるガス感と甘酸っぱさ。色に引っ張られて甘みをかなり強く感じるが、酸味もなかなか。にごり酒は本来かなり濃い飲み口になるけど、その濃さを感じさせない爽やかな味わい。余韻も長いかと思いきや、キレ良く収まる。
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ここで解説。にごり酒とは、醪(もろみ)(原料である酒母、米麹、蒸米、水が発酵し、どろどろに白濁したもの)を搾るときに、目の粗い布などで濾(こ)したものを指す。名前の通り、淡雪のような白いにごりが残り、醪の成分が豊富に含まれる。
似たような酒にどぶろくがある。どぶろくでは全く醪を濾さないのに対し、にごり酒はあらごしではあるものの、濾してあるのが大きな違いだ。どぶろくが「雑酒」に分類されているのに対し、にごり酒はこの濾す工程を経ているので「清酒」として分類される。
ちなみに、醪を漉して搾ることで液体と固体に分かれるが、液体部分が日本酒、副産物としてできる固体部分が「酒粕」だ。
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【2杯目】群馬 龍神酒造 「尾瀬の雪どけ 桃色にごり」
創業は南北朝時代まで遡るらしい。名前の通り、尾瀬の雪どけが滞積してできた名水が出る井戸の上につくられた酒蔵で、銘酒を醸し続けている。
あまりにもピンクすぎてリキュールと間違えそうになるけど、着色料を一切使用せず、赤色の酵母をうまく利用し発酵させている、紛れもない日本酒。注いだときの見た目が華やかなので、春のパーティーにはピッタリだろう(もう花見の時期はとっくに過ぎてしまったけど)。
甘い香りにつられて飲むと、トロリとした舌ざわりに濃厚な自然の甘み。甘口のお酒が好きな人はもちろんだけど、マッコリが好きな方にもおすすめできそう。
そのまま飲むだけでなく、シロップを入れてみたり、炭酸飲料で割ってみたりしても面白そう。日本酒の新たな可能性を感じさせる一本。
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GWを過ぎれば夏酒の季節。日本酒の季節は早く、先取りしているうちに暑い夏がやってくる。今年度も良い酒に巡り合えますように。