頻繁に行く和酒バルでは、いつも新しい酒、珍しい酒を出してもらえる。最近は水みたいに飲みやすいものや、華やかな香りのものがウケが良いようだ。味覚や嗅覚に訴えるのは王道中の王道。しかし、今回味わったものは「視覚」に訴えるものだった。濁り? 発泡? 熟成? どれも違う。「赤色」の日本酒だ。
見た目にも興味を引かせる、珍しいお酒。二杯ご紹介しよう。
目次
1杯目
和歌山 平和酒造 「赤紀土(あかきっど)」
和歌山県の山々に囲まれた地にある平和酒造は、日本酒だけでなく梅酒でもトップクラスの人気を誇っている。日本酒の「紀土」は季節酒含めて色んなバージョンが出ているが、いずれも食中酒として素晴らしい味わいだ。
そんな紀土から「赤」が出た。写真でもすぐに分かる真っ赤な色合いは、赤米によるもの。先史時代に日本に伝来した当時の姿を残す赤米を用いて醸した、パッと見ただけでは到底日本酒と分からない一杯だ。
こんな変わり種を使っているのに飲みやすいのがすごい。紀土らしい、飽きのこない軽快さを残しながらも、赤米による香ばしさやとろりとした甘い香り、しっかりした奥行きを感じる。肴無しで飲むには少し重いけど、濃いめの肉料理にも合わせられる。
色々記事を読んでみると、こんな綺麗な発色のために、仕込み時の赤米の配合に苦労したらしい。多く入れるとしっかり色が出るものの、味にエグ味が出る。一方で、逆に量が少ないとエグ味は減るが色が出なくなる。そのバランスをとるのが難しいようだ。酒造の果てない努力を想像しながら飲めるお酒。
2杯目
群馬県 龍神酒造 「ロゼノユキドケ」
蔵の創業は南北朝時代に遡るらしい。酒造はやはり歴史の深さが違う。
尾瀬の雪どけが滞積してできた名水「龍神の井戸」の上に酒蔵を作ったのが始まりで、代表銘柄「尾瀬の雪どけ」の名称はここから来ている。
今回、そんな龍神酒造が出したのが「ロゼノユキドケ」。ただのジョークと侮るなかれ、本当にロゼ色なのだ。酒米が赤いのかと思いきや、こっちは赤色酵母で仕込んだ醪(もろみ)を絞って造られた日本酒。ワイングラスで出されたらほとんどの人がロゼワインだと錯覚するだろう。
アルコール12度で飲み口も軽い。イチゴのように瑞々しい甘味や酸味を持つこのお酒は、本当にロゼワインを彷彿とさせる。よく冷やして透明なグラスで飲んだら、その飲みやすさにあっと言う間に四合酒瓶が空になってしまうに違いない。
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今回紹介した2種類のお酒を調べていくと、「ラベルとお酒の色が素敵で購入しました」「普段あまり日本酒を飲まない方にもオススメです」といった文言が並ぶ。日本酒好きの裾野を広げる赤とピンクのお酒、また店で出会えたらもう一度しっかりカメラに収めてからじっくり味わいたい。