果物を原料とした蒸留酒【EAU DE VIE(以下オードヴィ)】
オードヴィは定義するのが少し難しく、上記に書いたように果物を蒸留したものを指すのですが、ワインを作った後のブドウやワインを蒸留したものを【ブランデー】と呼びますし、リンゴを蒸留したものは【カルヴァドス】と呼ばれます
熟成前のブランデーをオードヴィと呼ぶ事もありますし、さらに言えばカルヴァドスは樽で熟成をするためブランデーの一種とみなされる事もあります
と、こんな具合に定義したりすることが難しいオードヴィですが、一つ言えることは素晴らしいお酒であることは間違い無いということです
今回はかつてスウェーデン王妃も愛したというマスネ社のフランボワーズオードヴィについてご紹介いたします
目次
神々のイチゴ?フランボワーズとは
フランボワーズ……
ケーキなどにもよく使われていますし、お菓子のフレーバーとしても馴染みがあり日本でもだいぶ浸透してきた名前ですね
しかし、このフランボワーズが実は【ラズベリー】であることを知らない人が意外にも多いのです
ラズベリーは英語でフランボワーズはフランス語という違いのみで全く同じものになります
フランボワーズはアルファベットだと【Framboise】となり、その語源はフランス語のイチゴ【Fraise(フレイズ)】と神々が食べる不老不死の効果があるとされる食物【Ambrosia(アンブロシア)】を組み合わせた言葉となっています
日本語ではキイチゴと呼ばれていますね
説明しなくても多くの人が知っている味だとは思いますが、甘酸っぱさと小さな種の食感が特徴です
攻略!フランボワーズから蒸留酒を作れ!
マスネ社はフランス最大手の蒸留業社で、蒸留酒以外にもリキュールや南米のチリでワインも作っています
サクランボから作られるキルシュヴァッサーや洋梨から作られるポワールウィリアムスなどがありますが、やはり代表的なのはフランボワーズ
というのもフランボワーズから蒸留酒を作るのは非常に難しかったのです
ー発酵とはー
蒸留酒、というよりお酒を作る時は必ず発酵というプロセスを経るわけですが、その発酵には【酵母】と【糖(グルコース)】が必要不可欠なのです
酵母とは菌の一種で、糖は酵母の餌となります
酵母が糖を食べると、その糖をエタノール(つまりアルコール)と二酸化炭素に分解します
この分解作用を発酵と呼んでいるわけですね
蒸留酒や醸造酒の原料は様々ありますが、多くの場合は糖を含んでいます
オードヴィに使われる果物然り、ワインに使われるブドウ然り、ラムに使われるサトウキビ然り……
ただしウイスキーを始めとした穀粒を原料とする蒸留酒などは、少々手間がかかります
例えばよく使われる穀物の大麦は成長過程で発芽するときだけ、穀粒の内部にあるデンプンを放出し糖に変えます
その糖は成長のために使われるのですが、成長しきってしまうと糖が失われてしまいます
そこで発芽大麦、つまりモルトを作る人達は2つのコツを長い歴史の中で掴みました
1つ目は穀粒を水に浸すことで発芽を促すこと、2つ目は発芽した穀粒を乾燥させることで成長を止めてしまうことです
その乾燥の際に温風を当てたりするわけですが、一部ではピートと呼ばれる泥炭を焚いて煙を当てて乾燥させます。それがスモーキーな香りやピート香と呼ばれるものを生み出すのですが、それはまたウイスキーのことをお話しする機会があればにしましょう
ー閑話休題ー
2代目マスターディスティラーのユージーン・マスネが糖の含有量が他の果物と比べて少なく、蒸留するのが難しいフランボワーズから上質な蒸留酒を作る方法を生み出しました
それはフランボワーズを中性スピリッツに浸した後に蒸留する方法
通称【マセラシオン】です
調べたところによると……
本来であれば果実に含まれる糖からアルコール生み出し蒸留するのですが、フランボワーズの糖の含有量的にそれは難しい……であれば果実からアルコールは生み出さず、フレーバーを最大限引き出し、その抽出液を蒸留する、という方法のようです
ジンの作り方に似ていますね
ジンも穀物で作られた中性スピリッツにジュニパーベリーを浸し香りを引き出したものを蒸留し、その過程でボタニカルと呼ばれる様々な果実や草花などでフレーバーを付ける蒸留酒です
ジンのフレーバー付けの方法の一つにもマセレーション=マセラシオンがあります
もう一つの方法は【ヴェイパーインフュージョン】と呼ばれますが、それはジンについてお話しする機会があれば、と思います
なぜ中性スピリッツに果実を浸す事でフレーバーが引き出されるかというと、浸透圧が関係しているようです
浸透圧について簡単に説明すると、液体中の濃度に差が生じると、濃度を均一に保とうとする作用のことを言います
液体中、というとややこしいですが、例えば容器に液体を注ぎ、その液体に果実を漬けるとしましょう
果実には水分が含まれています
【容器に入った液体】と【果実の中の水分=液体】
この2つの液体の濃度の話になります
果実には様々な成分、総称してエキスと呼ばれることが多いですが、中性スピリッツに浸すことで、果実の内側と外側の濃度を均一に保とうと浸透圧が働き、エキスが中性スピリッツに移っていきます
日本では昔から梅酒を作る際に浸透圧を利用していますね
梅酒作りでは氷砂糖などの砂糖を一緒に入れることで浸透圧の作用を強めています
フランボワーズを漬けるスピリッツは当初はワイン由来の中性スピリッツを使用していました
現在は同じフランボワーズ由来のものを使っているようです
かくしてフランボワーズのオードヴィを作ることに成功したマスネ社は、市場を独占し、さらにスウェーデン王室からも御用達となったのでした
オードヴィ ソヴァージュ フランボワーズの味
さて実際このお酒はどんな味がするのでしょう
樽での熟成はしていないので当然無色透明です
香りを嗅いでみるとまず印象的なのは【青海苔】のような香り
面食らう人もいるかもしれません、ですがどうか敬遠しないでください
ゆっくり香りを楽しんでいくと何に由来しているものなのか、だんだんと理解が追いつきます
次に感じる香りはフランボワーズの甘い香り。これは間違いなくベリーの香りです
果実の香りを存分に感じられたら一口飲んでみましょう
驚くほどにフランボワーズ
繊細な果実の甘酸っぱさが口いっぱいに広がります
しかしこれは蒸留酒。度数が40%ありますから力強さも感じます
実に素晴らしい風味。ジンやウォッカやウイスキーでは体験できない味わいです
さて、一番最初に感じたであろう【青海苔】の風味この正体は一体なんでしょう
ラズベリーを一粒、食べた時のことを思い出してみてください
甘酸っぱい風味はすぐに思い出せると思います
ですがどうでしょう、もう一つ何か思い出せませんか?
柔らかい果実ですが、噛んだ時にカリッとした小さな食感があります
【種】です
ラズベリーは摘める一粒にたくさんの実が集まっているのですが、その小さな一粒一粒に種が入っています
種を味わうということはあまりないと思いますが、オードヴィを飲んだ時に感じる【青海苔】のような風味は、この種の【香ばしさ】からきているものだと私は感じます
そう理解すると、このフランボワーズのオードヴィは、本当に果実をそのまま蒸留酒にしたのだと、感動すら覚えます
飲む際は少し冷えているくらいが美味しくいただけますよ
冬場は常温でも良いですが、夏場は冷蔵庫で冷やしてあげたほうが良いかと思います
まとめ
オードヴィは他の蒸留酒と比べると比較的価格が高いものが多いです
¥4,000くらいからが多く、あまり手が伸びない人が多いです
また日本では製菓材料だという認識の人も多く、飲むものだと考えていない人もまだまだ多いですね
しかし今回ご紹介したフランボワーズのオードヴィも含めですが
【そもそものクオリティが高い】ものが殆どです
あまり格付けというのは好きではないのですが、ウイスキーやジンなどは安価なものだと、例えば風味が乏しいだとかアルコールの刺激が強いなどのマイナス面を感じることも無くはないと思います
もちろんそういった安価なウイスキーやジンも、生活の中で明日への活力にしている人がいるでしょうから、安酒だと断じる事はしません
その点、オードヴィは製造の段階でかなり繊細に作られます(他の蒸留酒が雑に作られているとは言いませんが)
繊細な風味を追い求めるために大量生産も殆どされません
ですので手にしたオードヴィはクオリティが高いものと思って間違いないのです
果物の繊細で純粋な風味を見事に体現しているオードヴィ
ぜひ試していただきたいカテゴリです!