日本のインポーターの方と共に、ヴェット・エ・ソルベの当主ベルトラン・ゴトロの元を訪ねました。
肌寒い雨の日だったにも関わらず、ベルトラン・ゴトロは3時間以上も、シャンパーニュに対する熱い情熱を語ってくれました。
シャンパーニュの南。グラン・クリュもプルミエ・クリュもない地で、高品質で類まれなシャンパーニュが造られています。
目次
ヴェット・エ・ソルベの栽培と醸造
シャブリから車を出して、約1時間ほどで到着したビュシエール・シュル・アルス村。
ヴェット・エ・ソルベのある人口130人の小さなこの村は、シャンパーニュの南に位置し、ヴァレ・ド・ラ・マルヌよりもブルゴーニュのシャブリに近い位置にあります。
土壌もシャブリと同じように、ジュラ紀後期のキンメリジャンの粘土石灰岩で、牡蠣などの海洋生物の化石の混じった土壌と、ジュラ紀後期のチトニアンの粘土石灰岩の土壌からなっています。
当主のベルトランは、このブドウ畑がシャンパーニュを造ると考え、ブランド名に自分の名を冠することを選ばず、二つの畑の名前から『ヴェット・エ・ソルベ』と名付けました。
家のすぐ裏にあるヴェットでは、キンメリジャン土壌でシャブリから取り寄せたシャルドネとピノ・ノワールを栽培し、果樹園と森に囲まれたソルベでは、チトニアンの土壌でピノ・ファン(小粒のピノ・ノワール)を栽培しています。
どちらも隣接する畑がない為、ビオディナミの環境が守られています。
そして、シャンパーニュの中でも特に南に位置するこの村の畑は、年間の平均気温がランスや、マルヌの周辺よりも1℃高く、斜面の角度にもよりますが、熟度の高いブドウが生産できます。
そして、収量制限を徹底していて、枝1本あたり1房のみに仕立てるため多くても、25hl/haに制限しています。
ちなみに、この地域の平均収量は75〜80hl/haなので、周辺と比べると少なくとも1/3の収量に抑えられています。
写真左:有機栽培に転換する前のブドウ樹 写真右:有機栽培に転換した後のブドウ樹
根の伸び方が全く違います。地中深く伸びた根は、土中の養分を吸収し、フィネスを齎します。
ベルトランの家系は代々農家とブドウ栽培をしていて、兄が農業を、ベルトランがブドウ栽培を父から引き継ぎました。
父の代までは周りと同じように化学肥料を使用し、ブドウを協同組合に販売していたそうです。
ベルトランが引き継いでからは、有機栽培へ転換しましたが、それまでの化学肥料の影響で、9年間納得いくブドウが出来ずに、自分の名でシャンパーニュを出すのを見送り続けたそうです。
その間に、土壌分析の世界的権威であるクロード・ブルギニョンから栽培について学び、1998年からビオディナミを実施。
1999年からは、ジャック・セロスの当主アンセルム・セロスの元でシャンパーニュ造りを学び、2001年に待望のフィデルをリリースしました。
諦めずに学び、挑戦を続ける姿勢に、感動すら覚えます。この挑戦する姿勢は、モトトライアルの選手だったことに所以しているそうです。
よくプロモーションのように、ビオディナミであることが宣伝されていますが、彼にとってはビオディナミはより良いシャンパーニュを生産する為の一環として実施されていて、注目すべきは、この姿勢であると強く感じました。
醸造所に入ってすぐのところに、シャンパーニュ地方で伝統的に使用されているバスケット・プレスがあります。コカードとも呼ばれます。
シャンパーニュの生産者に聞くと、皆こぞって醸造で一番大切なことは『圧搾』であると答えます。
この垂直式バスケット・プレスは、スクリュー式水平圧搾機などに比べて、ゆっくり重力をかけてプレスするので、量は多くないですが、繊細な味わいのジュースを絞ることが出来ます。
分解して洗うことが出来るので、掃除も楽なんだそうです。
写真:土中に埋められたジョージアから取り寄せたクヴェヴリと、アンフォラ。
土中に埋められたクヴェヴリは年間を通して、ワインの温度が低温で一定に保たれ、ゆっくりと発酵・熟成するため、フレッシュな風味が保たれます。
ヴェット・エ・ソルべでは、圧搾後のピノ・ブランのジュースと、敢えて果皮を少しだけ一緒に中へ入れるそうです。
種子からのタンニンは無いので、より柔らかい味わいに仕上がります。
樽で熟成させると、ピノ・ブランの繊細な個性がかき消されてしまう為、クヴェヴリを使用しているそうです。
クヴェヴリの内部では自然に循環が発生し、底に重さのある果皮や、澱が落ちて、自然に清澄されます。
そうして、果皮からの複雑味と、フレッシュで繊細なピノ・ブランの個性が感じられる優しい口当たりのワインが出来上がります。
単一ヴィンテージで造るブルゴーニュワインのようなこだわりの詰まったシャンパーニュには、ベルトランの情熱が詰まっています。
ヴェット・エ・ソルベのキュヴェ紹介
キュヴェ ・フィデル・ノン・ドゼ
フィデルとは、フランス語で『忠実』という意味があります。
『テロワールに忠実であれ』というコンセプトの元に、キンメリジャン土壌のテロワールを表しています。
ヴェットとソルベのピノ・ノワールのブレンドで、オーク樽で10ヶ月の熟成。
この日試飲した2005年のフィデルは、桃のコンポート、アニス、アカシアの花の蜜、ライムストーン、ヘーゼルナッツ、マッシュルーム、上質なみりん、蒸し栗など熟成によるソトロンの香りと、果実のよく熟れた芳醇な香りがします。
蕩けるような滑らかな質感、ジューシーでピュアな果実味に、厚みのあるミネラルと力強い酸がセイブリーな味わいです。
キュヴェ ・ブラン・ダルジル
ヴェットで栽培されているキンメリジャン土壌のシャルドネを100%使用したキュヴェ です。シュール・リーを施して、複雑な芳香や味わいがあります。
元々自家消費用に造っていた為、生産量はあまり多くありません。
この日試飲した2008年のブラン・ダルジルは、リンゴのコンポート、リンゴの花の蜜、白カビチーズ、栗、パンデピスの芳醇な香り、温度が上がるほどに開いてきます。旨味のある果実味に、豊かなミネラル、クリスピーな酸が余韻まで長く続きます。10年以上の熟成を経ても、まだまだ熟成させたいポテンシャルの高さでした。
テクスチュール
ピノ・ブランを100%使用したこのキュヴェ は、クヴェヴリで10ヶ月発酵・熟成させたキュヴェ で、繊細なピノ・ブランのテクスチャーが感じられます。
この日試飲した2017年のテクスチュールは、ピノ・ブランらしいみずみずしさのある和梨の香りや、白い花、アニスの仄かな香り、野生酵母由来の酢酸の香り、まろやかな口当たりに、優しい果実味、舌の上を這うように広がるシームレスな酸、繊細ながらも豊かなミネラルや旨味をしっかりと感じられます。
キュヴェ ・セニエ・ド・ソルベ
ピノ・ノワール100%のセニエ法によるロゼシャンパンです。
珍しくマセラシオン・カルボニックを施して造られています。
この日は2019年収穫分の樽試飲のみでしたが、フランボワーズキャンディ、スミレの砂糖漬けのような芳しい香りに、ピュアで可憐な果実味があり、キメの細やかなタンニンのエレガントな味わいで、シャンパーニュになるのが楽しみでもあり、このままでも充分美味しいワインした。
キュヴェ ・エクストレ
ピノ・ノワール、シャルドネをブレンドし、10ヶ月の樽熟成をしたこのキュヴェは、生産量が非常に少なく入手困難なキュヴェです。
この日に試飲した2010年のエクストレは、カリンのコンフィチュール、マロングラッセ、カラメル、コーヒーなど、熟成による豊かなソトロンの香り、熟度の高い果実味に、仄かに塩味のする厚みのあるミネラル、しなやかな酸が余韻まで伸びやかに感じられる味わい深いシャンパーニュでした。
ヴェット・エ・ソルベのシャンパーニュを飲む際には、なるべく熟成を経たものを選び、飲む1時間前の抜栓と、エアレーションをし、提供温度は11℃から14℃くらいまでの温度変化による香りと味わいの変化を楽しみながら飲むのがおすすめです。
早飲みタイプのシャンパーニュが増えている中、長熟タイプのシャンパーニュの存在は嬉しく、早く飲みすぎなければ、素晴らしい味わいを見せてくれます。
より美味しいシャンパーニュ造りのため、挑戦を続けるヴェット・エ・ソルベのシャンパーニュをぜひ味わってみてください。
『生命が宿り、人に喜びを与えることのできるシャンパーニュを造る』というベルトランのフィロソフィが宿ったシャンパーニュを飲めば、ひとときの幸福感があなたを包み込んでくれるはずです。