お酒と宗教とは切っても切り離せない関係にあります。ワインとキリスト教、日本酒と神道などです。今回はキリスト教とワインの関係について説明します。
目次
キリスト教信仰国=ワイン大量消費国
ワインは世界中で飲まれており、世界各地で生産されています。ワインが世界中に広まった要因は多くありますが、その中でも特にキリスト教による影響が非常に大きいといえます。
まず世界の宗教人口を見ていきますと、
1位 キリスト教 約24億人
2位 イスラム教 約15億人
3位 ヒンドゥー教 約9億人
4位 仏教 約4億人
キリスト教徒が1番多く、世界の3人に1人がキリスト教信者という状況です。次にワインの生産量のランキングです。
1位 イタリア
2位 フランス
3位 スペイン
4位 アメリカ
5位 アルゼンチン
いずれもキリスト教信仰の国が並んでいます。1年間の1人当たりのワイン消費量を見ても
1位 バチカン市国
2位 アンドラ公国
3位 クロアチア
4位 スロベニア
5位 フランス
こちらもキリスト教信仰国が並んでいます。バチカン市国に至っては、キリスト教の総本山ですね。ちなみにバチカン市国では、1人当たり年間約54リットルワイン(1日約グラス2杯)を飲んでいます。
もちろん、体質等により飲めない方もいらっしゃると思いますので、それを考えると非常に多量のワインを摂取しているといえます。そして、その多くが赤ワインなのです。世界のワイン全体の消費量(白・ロゼ・赤)を見ても、赤ワインが全体の約6割を占めています。なぜキリスト教信仰国家は赤ワインをたくさん作り、赤ワインをたくさん飲む文化が出来たのでしょうか。そこには、キリスト教開祖のイエス・キリストが深くかかわっています。
イエスキリストとワインの関係
『最後の晩餐』という言葉は非常に有名で、皆様も何度も耳にしたことがあるかと思います。イエスが処刑される前日の、イエスと弟子12人の最後の食事会です。新約聖書にある福音書ルカ伝22章・マタイ伝26章によると、最後の晩餐の際に、イエスは次のような言葉を述べました。
「パンをちぎって弟子に配り『取って食べなさい。これは私の体です。』」
「ワインを杯に注ぎ『杯を受けて飲みなさい。これは私の血の杯です。』」
つまり、イエスが「このパンは私の肉体で、ワインは私の血だ」と弟子たちに語ったと言われています。このことからパンはイエスの肉体で、ワインはイエスの血であり、この2つの組み合わせはイエスキリスト本体であると考えられるようになりました。
現在でも各修道院や教会において聖餐式というものが行われています。聖餐式ではパンとワインが出され、これを口にして自らの罪を神であるイエスに許してもらいます。十字架の死によって成就された救いを、イエスは聖餐式を通じて人々に分けてくれるのです。
キリスト教の拡大=ワイン生産拡大
ワインは現在世界各地で造られています。今ではブドウ栽培に適した土地を探しそこでブドウ栽培、ワイン造りを行っていますが、昔はキリスト教の修道院においてブドウ栽培やワイン造りが行われていました。実際、シャンパーニュでもおなじみの“ドンペリ”は、ドン・ペリニョンという修道士が作り、その名がつけられています。
なぜ修道院でワイン造りが行われていたのでしょうか。前述した通りワインはイエスの血であるので、キリスト教では非常に重要な崇めるべきものでした。もちろん、そのような宗教上の理由もあったのですが、修道院の司教のような聖職者の多くは上流階級出身者が多かったのです。その為に以前のような優雅な生活を捨て去れず、自分の館や修道院の近くに自分専用のブドウ畑を持ち、ワイン造りをし、そのワインを飲用していたのです。ワインは当時から高貴な身分の人々の飲み物だったからです。また司教は、都市において聖職者として住民の相談等に応じるなど精神面を司る立場にあることは当然ですが、同時に行政の長としての仕事もありました。宿泊施設の乏しい当時、通常王家や高位の人物が都市に立ち寄った際に宿泊するのは修道院でした。修道院は現代でいうところの高級ホテルの役割もしていたのです。そのような貴賓をもてなす時、ワインは無くてはならないものであり、良いワインを貴賓に提供することは「礼儀作法」でもありました。時の権力者の厚遇を得て都市の利益を確保することは、行政都市を運営していた司教にとって重要な責務であり、そのための高品質なワインを備えることは、最大の関心事でした。
このように各修道院でワイン造りが盛んになりました。そして時代を経て大航海時代。キリスト教の宣教師たちは世界中の各土地、各大陸に渡り布教活動を始めます。その際に各地に修道院が作られ、そしてやはりブドウ畑も作られました。日本においても、宣教師が来航し大名に謁見する際には赤ワインが献上されました。
このようにキリスト教宣教師や司教の苦労がありキリスト教が世界各地に拡大したからこそ、世界中にワインが広まったのです。ワインが広まった背景や、昔ワインはどのような立ち位置だったのだろう、どのような人が飲んでいたのだろうなど、考えながら飲むと普段とはまた違った味わいになるのではないでしょうか。