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若人も 月日が経てば ビヤ樽か
成人になり、お酒を嗜むようになると、いつしかお腹が出た中年オヤジになってしまう様を詠んでみました。今回は樽の話です。
樽という字を分解すると、木、八、酉、寸になります。酉という字は、元々お酒が入った容器をそのまま文字にした象形文字です。酉だけで酒を表す文字でしたが、後世にさんずいが付きました。八という字には「左右に物が分かれる形」という意味と「何かの気が上に立ち向かっている」という意味があります。酋という文字で、後者の意味から酒の香りが立ち上がっているということになります。寸は手を意味する文字なので、つくり側で香り立つ酒樽を手に持つという意味になり、神様の前に酒樽を置く形を表します。中国古代の青銅製の酒器の名前でもあります。これに木がついて、木製の酒の容器を意味します。
日本では古代から箍(たが)の無い、主として木製の小型の樽が作られてきました。箍のある樽が作られるようになったのは鎌倉時代の末期頃で、中国から伝わったとされています。箍は竹等を裂いてから螺旋状に編んだ輪のことで、樽の外側に堅く締めるようにはめられて、側壁を構成する板を結束して強度を保ちます。この箍が緩むと板がバラバラになってしまうことから、気持ちや規律が緩むことを「箍が緩むと」言うようになりました。この箍のある樽や桶を結物と言い、結樽、結桶と呼ぶことがあります。
樽と桶の違いは、樽には蓋がありますが桶には蓋がありません。その昔、樽の蓋は鏡と呼ばれていましたので、木槌等で蓋を割ることを鏡開きと言います。この際割るという言葉は縁起が悪いので、縁起の良い開きという言葉が使われています。鏡開きに使われる酒樽は、菰(こも)樽と言われ、菰と言われるわらを編んだむしろに包まれています。
古代の西洋では油やワイン等の液体は、アンフォラのような陶器の容器に入れて木栓をして運ばれていました。樽が使用されるようになったのは、3世紀頃からと考えられています。西洋の樽は、側面が中央に向かってなだらかに膨らんだ円筒形をしており、箍は鉄製でした。この形状により、横にすると少ない力で転がすことが出来ます。樽の普及により物資の運搬が飛躍的に伸び、樽から生まれた単位を表す言葉も生まれました。例えばトンは空の樽を叩いた時の音に由来します。石油の計量単位のバレルは、アメリカのペンシルバニア油田で石油を運ぶのに鰊樽を使用したのが由来とされています。
ビールの輸送にも昔はこの木樽が使用されておりましたが、日本では昭和32年頃からより気密性の高いアルミ樽に切り替わっていきました。その後昭和44年頃からステンレス製のタンクも使用されるようになりました。現在のビヤ樽は、木製の頃の中央が膨らんだ形ではありませんので、お腹が膨らんだ人をビヤ樽と言うのに違和感を持つ若い人もいるかもしれません。ドンキーコングゲームのたるを思い浮かぶと良いのですが。
ビールを飲み過ぎると、ビール腹とかビヤ樽になると思われる方もいるかもしれませんが、ビールのカロリーはロング缶1本でもご飯の茶わん半分にもなりません。ビールに含まれる炭酸やホップの苦味成分が、胃壁を刺激することにより食欲が増進すると言われています。それでついつい食べ過ぎるのが原因です。気をつけましょう
一年中プールに入っているお酒って何だ?
答えは瓶ビールです。近頃ではあまり見かけなくなりましたが、以前は冷たい水が入っている冷蔵庫で瓶ビールを冷やしているお店が結構ありました。ちなみに私が通っている新橋の焼鳥屋さんにはまだあります。業界でこの冷蔵庫は水冷式ビールクーラーと言うそうです。またイベント会場等で見かけるジュースやビールを氷水で冷やしている大きな容器、あれは「どぶづけ」と言う名前だそうです。電源が無い、または遠い場所で一度にたくさんの飲料を冷やすのに便利ですね。
ビールの飲み頃温度は、夏場で4~6℃、冬場で6~8℃と言われています。この温度に瓶ビールを冷やす場合、水冷式冷蔵庫で氷を足すと最短約20分で冷えるそうです。氷を入れなくても私の行くお店の人はすぐ冷えると言っているので、1時間はかからないと思います。これが通常の空冷式の業務用冷蔵庫では、入れる本数と機種にもよると思われますが、約8時間もかかるようです。この違いは何なのかということで、今回のお話は熱伝導率です。
物質内に温度差があると温度が高い方から低い方に熱が移動します。熱伝導率とはこの熱の移動のしやすさを表す量のことです。
熱伝導率の単位はW/(m・k)で、ワット毎メートル毎ケルビンと読むそうです。ワットとは仕事率の単位で、1ワットは1ジュールの仕事を1秒間で為されることを言います。1ジュールとは、1ニュートンの力で物体を1メートル移動させるだけの仕事量のことです。1ニュートンとは、1kgの質量をもつ物体に1メートル毎秒毎秒(m/s2)の加速度を生じさせる力です。私も頭がフラフラしてきましたが、もうちょっとがんばりましょう。ケルビンとは、分子の運動が止まる温度(絶対零度=摂氏マイナス273度)を基準とする絶対温度の単位です。1ケルビンはマイナス272℃です。
これらを踏まえて熱伝導率とは、厚さ1mの板の両面に1℃の温度差がある時にその板の面積1平方メートルの面を通して1秒間に流れる熱量を表します。この数値が大きい程熱を伝えやすいということになります。
実際の数値でみると水は10℃で0.581、氷は0℃で2.2、アルミは0℃で236、鉄は0℃で83.5、銅は0℃で403、乾燥空気は0℃で0.0241、ガラスは常温で0.55~0.75となっています。この伝導率の差が、ビールを冷やす時間の違いに出てくるということになります。数値を見ても水は空気の約24倍ですから。逆に空気は熱を通し難いという性質を使って作られているのが発泡スチロールです。
水冷式の冷蔵庫で冷やされたビールの方がおいしいという人がいます。私も同感です。これは私の推測ですが、空冷式の冷蔵庫の場合、扉の開け閉めの際に冷気が流出して庫内の温度が上がってしまい、仮に水冷式と同じ温度設定であってもその温度に実際はなっていないのではないかと思います。水冷式では上面の扉を開けて冷気は逃げても、中の水温にはほとんど影響が出ないと思います。したがって水冷式で冷やされたビールは安定的に冷えており、それがおいしいと感じられるのではないでしょうか。