日本の国酒ともいえる日本酒。日本全国47都道府県それぞれに最低でも一つの酒蔵があり、北から南までその土地の米や水、気候風土から様々な日本酒が造られています。
では、日本酒は日本だけで造られているのでしょうか。
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日本国外で造られるようになった日本酒
実は海外における日本酒製造は意外に古く、明治期と言われています。その頃ハワイやブラジルへの移民が増加し、現地での需要が高まったことによります。当初は日本からの輸入で賄われていたようですが、流通コストや関税などの問題により、現地に醸造所を作って生産をするようになりました。遠い海外へ渡った日本人の心を潤すための日本酒製造だったのですね。
昭和初期、日本の傀儡国家として存在した満州においても、酒造りが試みられました。当時、入植者の多くは青年層だったため消費量も多く、日本、いわゆる内地からの輸出に加え現地でも生産することにしました。しかし貧弱な設備や適性に乏しい原料米、極寒の気候、そしてなにより現地の水が硬水であったために、日本酒醸造はうまくいかず、かなりの苦労があった様です。
大手メーカーの進出
戦後経済的に大きな発展を遂げた日本から、多くの企業戦士がアメリカをはじめ海外で仕事をするようになりました。その頃現地には日本食のレストランも多数出現します。
そのようなレストランでは、もちろん日本の酒として日本酒も提供されることになります。カリフォルニア・ロールに代表される寿司ブームも相まって、海外での日本食人気は高まっていき、それに伴い日本酒の需要も増加します。
そうなるとやはり現地で生産することを考えるようになるのは必然。もちろんこの頃の中心は大手酒造メーカーによる日本酒であって、いわゆる地酒の類ではないですが、海外において日本酒が徐々に存在感を増してきたのは確かです。海外にいる日本人向けの商品ではなく、現地のローカルにも飲まれるようになっていくわけですね。
グローバル化により、もはや日本食レストランは世界の様々な国や地域にあります。日本酒を輸出入する日本や現地の商社の発展や、日本での地酒ブームなどもあり、今では多くの地酒も海外で飲めるようになりました。
新たな時代へ
筆者がニュージーランドのレストランに勤めていた3年ほど前、ひとりのニュージーランド人が自分で醸した酒を携え、店を訪れました。
そのお酒の名前は「全黒(Zenkuro)」。黒はニュージーランドのナショナルカラーでもあり、ラグビー・ニュージーランド代表のオールブラックス(全黒)でもおなじみですね。なかなかのネーミングです。
このお酒は彼がニュージーランド南部のクイーンズタウン周辺で醸しています。
どうやらレストランオーナーのお知り合いということで、お酒のプロモーションにきたということ。私も試させていただきましたが、甘みが抑えられたピュアでクリアな味わいでした。
https://zenkuro.co.nz/
さて実はいまこのような例が、世界的に広がっています。
2018年の時点で、日本以外で日本酒の醸造を行っているのは世界15か国に上り、アメリカの様に複数の醸造所を持つ国もあります。
その中にはもちろん大手メーカーも含まれていますが、日本を訪れた際、もしくは海外にて味わった日本酒に魅せられ、自分の国で醸造を行うようになったマイクロブルワリーもあり、「クラフトサケ(Craft Sake)」とも呼ばれる、ひとつのムーブメントにもなっています。
良い酒を造りつつも残念ながら販売の面で苦戦し、酒造りをやめてしまったノルウェーの醸造所もある一方で、これから開業予定の醸造所も各地にいくつかあるようです。
シャンパンのドン・ペリニヨンで有名なモエ・エ・シャンドン社にて、30年近く醸造最高責任者を務めてきた人物が、引退後に富山で酒造りを始めたというニュースも、最近衝撃と共に飛び込んできました。国際的なワインコンクールに日本酒の部門ができたり、美食の国フランスのレストランにて日本酒がサーヴされるようになったりと、いま日本の国酒はそのクオリティをもって、確実に世界に受け入れられるようになってきています。
日本酒が「Sake」となり、Wineの様に世界中で造られるようになる日が来るのでしょうか。