新年が明け、今年も良い酒を飲もうと思った矢先、コロナが再び猛威を振るっている。また飲食店に出入りするのも難しくなるかもしれない、と思うと、年末年始に行きつけで飲んでいた酒も格別愛おしく感じられる。
たまたまタイプ違いの同じ銘柄を飲んだので、今回はこのお酒にスポットを当ててみていこう。
目次
【1杯目】
滋賀 冨田酒造「七本鎗 搾りたて生原酒」
琵琶湖の最北端、賤ケ岳の山麓で間もなく500年という歴史を刻む古い蔵元。七本槍は、美食家として名高い、北大路魯山人が好んで飲んだことで有名なお酒であり、魯山人から横額も貰っている。
グラスからの香りはほとんどしないけど、口に含むと林檎のような瑞々しい香りとお米のふくよかな旨味が併せてドッと押し寄せてくる。
そのまま旨味だけで突っ走るかと思いきや、後半は強い苦味がやってきて、そのまま後味を締める。ちびちび飲むお酒の中でも、味の変化が面白いおかげで2杯目、3杯目と飲めてしまうお酒。
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小さな酒蔵ではあるものの、創業は1534年というから驚きだ。1500年代といえば戦国時代まっただなか。有名な会社が創立数十年の記念イベントをやっている中で、文字通り「桁が違う」と言えよう。
「七本槍」という銘柄の由来も、戦国時代に基づいている。
本能寺の変の翌年、1583年に、織田信長の跡目をめぐり羽柴秀吉と柴田勝家が戦った「賤ヶ岳の戦い」が勃発。この戦で活躍した福島正則ら七人の若武者が、秀吉を天下人へと導いた「賤ヶ岳の七本槍」と称えられ、今に語り継がれている。お酒の名前は、正にここから取られたものであり、歴史のロマンに溢れている。
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【2杯目】
滋賀 冨田酒造「七本槍 うすにごり生原酒」
ほんのりと果実感のある、いかにも「これぞ新酒!」といった香りがほのかに感じられる、うすにごりのお酒。山田錦らしい華やかで柔らかい口当たりに、うっすらと絡んだ澱(おり)(清酒中に浮遊している溶け残った米や酵母)がジューシーさを増幅させる。とはいえ、ただただ濃厚な味わいというわけでもなく、七本鎗らしいキレや辛味も感じられるバランスの良さ。老舗らしい完成度の高さを見せつけられた気分になる。
開栓したては澱のおかげで僅かに発泡感もあるため、爽快感もプラスされてより面白みを増している。もつ煮など、体が温まる濃厚な味わいの肴と合わせて飲みたくなる味わいだ。
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同じ銘柄でも、飲んでみるとここまで違うのか、と感動してしまう。
今年はどんな日本酒に出会えるのか、楽しみにしつつバタバタの日常に向き合っていくとしよう。