山廃仕込み、生酛造り。これらは両方とも日本酒の造り方を表していますが、一体どんなものなのでしょうか。
目次
日本酒の分類
日本酒にもいろいろな種類があり、ラベル上にはたくさんの文字が踊っています。
それらの文字の組み合わせにより、そのお酒がどんなタイプなのか、分類することが出来るわけですね。
例えば「純米」の文字は、そのお酒が米だけで造られているのか、そうでないのかを示します。この場合、純米の方が良いということではなく、あくまでお酒のタイプの話です。これはまた別のコラムに書いていますので、そちらをご参照ください。
本醸造、吟醸、大吟醸などは、「特定名称酒」としての分類で、精米歩合にも関係しています。どれだけお米が磨かれたかということですね。それ以外は「普通酒」になります。生、生貯蔵酒、生詰酒などは火入れの方法による分類。他にも原酒や無濾過、あらばしり、おりがらみなど日本酒がどのような状態で出荷されているかを示している言葉もあります。
山廃仕込み、生酛造りという言葉は、そのお酒がどのように醸されたかを示しています。
山廃もしくは生酛のお酒か、そうでないかのふたつに大別できます。
日本酒はどのように造られるのか
どのようなお酒でも原料に含まれる糖分を、酵母を添加することによりアルコール発酵させ、アルコールと二酸化炭素に転化させます。しかし日本酒の原料であるお米には糖分が含まれていません。なのでお米に含まれているでんぷんを糖化させる必要があります。この“糖化”という作業、実は皆さんでも簡単に体感できます。ご飯をよく噛んで食べていると甘みが増しますよね?あれは唾液中のアミラーゼという糖化酵素の働きにより、ご飯のでんぷん質が糖に分解されているのです。
ビールなど穀物を利用した他のアルコール飲料も、必ずこの糖化という工程が必要ですが、これを日本酒の場合は麹の力で行います。
日本酒造りでは、お米は2つの用途に使われます。まず蒸したお米と麹菌を合わせて米麹を造ります。ここで使われるお米を「麹米」と呼びます。出来上がった米麹にさらに蒸米と水、発酵酵母を加え酵母が働ける環境になった状態を「酒母」または「酛(もと)」と呼びます。
そしてそこへ「掛米」と呼ぶお米をたくさん加え、本格的に発酵させてできあがるのが「もろみ」、それを漉すことにより日本酒は出来上がります。
生酛・山廃酛と速醸酛
では生酛造りと山廃仕込みはどの部分のことでしょうか。
両方とも掛米を加え発酵させる前、酒母造りの工程に用いられます。
酒母造りの際には麹菌や発酵酵母の力を最大限引き出し、酒造りの品質を保つため、空気中にいる雑菌や別の酵母の影響を防ぐ必要があります。しかし唯一、乳酸菌だけは別。乳酸は酒造りに影響を与えるその他の雑菌の繁殖を防ぐ働きを持っています。
空気中の乳酸菌を自然に取り込み、その力を利用して酒母を造る方法を生酛造りと言います。
こう書くとすごく簡単に聞こえますが、実際にはかなりの時間と手間がかかり、醸造用の乳酸を加えて造る、いわゆる「速醸酛」に比べ約2倍~4倍ほどの時間を必要とします。
そして労力の面では米麹と蒸米を丹念にすりつぶし、酵素の働きを促進する工程「山卸し」という重労働があります。しかし明治期になり精米技術が進歩してくると、白米への酵素の吸収が容易になり、山卸しという工程を省略することが出来ました。こうして造った酛を「山卸し廃止酛」と呼び、出来たお酒を省略して山廃仕込みと言います。
濃醇な酒質
語弊を恐れずに言えば、速醸酛系のお酒に比べこれらは昔ながらの造り方といえるでしょう。仕上がるお酒は一般的に濃醇な酒質だと言われます。どっしりした奥行きのある味わいですね。手間暇かけて造られたお酒なので酵母の生命力も強く、高いアミノ酸組成力やしっかりした乳酸から来る旨味やまろやかさも特徴です。
しかし前述したように、速醸酛系に対する優劣の話ではありません。あくまでタイプとして捉え、さまざまな味わいを持つ現代の日本酒を、積極的に楽しみましょう。