“アル添酒”という言葉を聞いたことがあるでしょうか。日本酒のうち醸造アルコールを添加したものの俗称として、こう呼ばれたりします。
しばしばネガティブに捉えられることもある、このアル添酒について考えてみます。
目次
アル添酒とは?
そもそも日本酒にあまり詳しくない方の中には、日本酒に米と水以外の原料が使われているのを知らない方もいるかもしれません。醸造アルコールはその代表です。他にかなり安い日本酒には糖類や酸味料などが使われているものもありますが、これらは前者とは分けて考える必要があります。
日本酒は大きく2種類に分けることが出来ます。米と水だけで醸される“純米酒”系と、醸造アルコールを添加して造られる“醸造アルコール添加”系です。
もう一度述べておきますが、これらはどちらも間違いなく“日本酒”です。
醸造アルコールとは?
ではこの添加されている“醸造アルコール”とは何なのでしょうか。
言葉の響きや添加物ということで少し怪しげではありますが、これはいわゆる蒸留酒と呼ばれるもので、決して工場で化学合成して造られる様なものではありません。
蒸留酒ということは、要するに焼酎や、ウィスキー、ブランデー、ジンやウォッカなどのスピリッツと呼ばれるものと同じということですね。日本酒やビール、ワインは酵母の働きで糖分をアルコールに分解して造られる醸造酒、それに対して蒸留酒はそれら醸造酒を加熱して出来た蒸気を集め、冷やして造るお酒です。原料から見た極端な言い方をしますと、日本酒の蒸留酒は米焼酎、ワインはブランデーに、ビールはウィスキーにとなりますでしょうか。
では日本酒に使われる醸造アルコールには米焼酎が使われているのでしょうか。答えはNoです。日本酒に添加される醸造アルコールの原料は、主に廃糖蜜という、サトウキビから砂糖を生成する際に出てくるものです。これまた“廃”という字がネガティブな感じですが、これにより造られる代表的なお酒がラム酒です。ではラム酒が直接日本酒に入れられているのかというとそうではなく、連続式蒸留器というものでとことん蒸留し、ほぼ原料の個性が感じられなくなったものを使います。
なぜ添加するの?
添加の理由としては、酒質の安定や吟醸香の抽出などが挙げられます。吟醸香は水には溶けないがアルコールには溶けだしてくるので、一層華やかな風味が得られる効果を狙うわけです。雑味なども抑えられるのでスッキリ仕上がるとも言われます。一方で現代の醸造技術においては、昔より安定した酒造りが可能になっていますし、純米酒でもスッキリしたお酒を生み出すことが出来ます。
いまでは、目指すスタイルの酒を醸造する際に、杜氏さんの経験と技量に基づいて、酒造りの幅を拡げるようなエッセンスとしての使い方をされているのではないでしょうか。
いつから行われているか
この技術の考え方は江戸時代初期にまで遡ることができ、当時の関係書物には日本酒醸造に焼酎を使うと、味が締まって腐りにくくなるという様なことが書かれており、これを柱焼酎と呼びます。もちろん当時加えていた焼酎は、現在の様な高精製の醸造アルコールではないはずですが、この様に醸造酒に蒸留酒を添加して日持ちを良くするという様な考え方は例えばシェリーやポート他、海外のいわゆる酒精強化ワインとも共通しています。
諸説あり、この技術が脈々と今に受け継がれているわけではなさそうですが、考え方として現在の醸造に影響を与えていることは多分にあるでしょう。
ネガティブに捉えられるようになった理由としては、戦中から戦後しばらく引き継がれた、いわゆる“三増酒”と呼ばれるような、劣悪な酒造りの歴史の影響もあるでしょう。戦中、米不足から米由来以外のアルコールや糖類、調味料などを添加し、増量した酒を国策として造らせました。その後もしばらく消費の中心だったことが一時期の日本酒低迷につながったと言われます。
いまでは法的にこの様なお酒は認められていません。
日本酒のひとつのタイプとして楽しむ
現在の市場の構成比は、日本酒出荷量のほぼ8割が醸造アルコールを添加したものとなっています。ほとんどの日本酒に醸造アルコールが添加されているということですね。
一方で、近年の地酒ブームや飲み手の意識の高まりもあり、これが醸造アルコールに関しての議論につながっているのではないかとも思います。蔵によっては純米酒しか造らないところもありますね。
しかし例えば先に述べた酒精強化ワインの例や、他にはシャンパンをはじめとするスパークリングワインにも、醸造段階でリキュールが添加されています。醸造アルコールの添加そのものは、悪いことではないでしょう。
これからの日本酒は純米の割合が増えていくことには違いないと思いますが、現段階では積極的にアル添酒も日本酒のタイプのひとつとして楽しんだ方が良さそうです。