「栽培醸造蔵」、聞いたことありますか?
“酒造りは米作りから”という信念のもと、神奈川県海老名市近郊で、酒米の栽培から日本酒の醸造まで一貫して取り組んでいる酒蔵「泉橋酒造」を訪ねました。
目次
地元・海老名と共に歩む老舗
泉橋酒造は東京都心からも50キロほどと、アクセスのしやすい神奈川県海老名市に位置しています。JRや小田急電鉄などが乗り入れる海老名駅周辺は、大きなショッピングモールがあるなど開発も進み、開けた印象ですが、駅を出て少し歩くと見渡す限りの水田が広がっていて、藏もその辺りにあります。この大きな駅から歩いても20分ほどの場所です。
この辺りは“海老名耕地”と呼ばれる、古代からの穀倉地帯。祖先も米農家だという創業家の橋場氏。酒造元としての創業は江戸末期ということですが、酒米を作ることを目指したのも、自然の流れなのかもしれません。
栽培醸造蔵
ワインの世界においては珍しくない、原料ブドウの栽培からワイン醸造まで手がけるいわゆる“ドメーヌ”の様なスタイルを取り入れる日本酒蔵が昨今増えています。
以前は食糧管理法により米の生産と流通を国に管理されていたため、米は農家が作るものであり、それを仕入れての酒造りというシステムが、法の下に当然のことでした。しかし95年にその食管法が廃止され、米の栽培と流通の規制が撤廃されると、泉橋酒造では栽培から醸造まで一貫して行うことを目指し、酒米の栽培を始めることになり、「栽培醸造蔵」という言葉も商標登録しました。
現在、泉橋酒造では地元の米生産者と酒米研究会を組織し、海老名とその周辺約46ヘクタールにて原料米を栽培、このエリアで90%以上の原料米をまかなっています。このうち、約8ヘクタールを泉橋酒造みずからが栽培しています。
米作りを自社で管理することにより、それぞれの米の特徴や土壌、生産者の個性を知り尽くし、生産者の顔が見えるお米で酒造りをしています。
ちなみに精米も100%自社で行っています。
減農薬栽培
栽培品種はよく知られた山田錦、雄町などの酒造好適米に加え、泉橋酒造でのみ栽培されているという“楽風舞”という新品種も作られています。
栽培は基本的に減農薬栽培。神奈川県の栽培基準の半分以下に抑えられています。一部、無農薬栽培の区画では、米糠を初期の除草剤代わりに使い、その後チェーンを使った器具を用い、人力で除草するキツイ作業を行うそうです。
数々のこだわり
さてこだわっているのは米作りだけではありません。「全量純米藏」として、こちらでは純米酒のみを醸しており、いわゆる“アル添酒”を製造していません。
その醸造方法も、全製品の半分を労力のかかる生酛造りで仕込んでいます。これは天然の乳酸菌をとりこむ、より自然に近い昔ながらの造り方。
麹造りにも麹蓋という伝統的な道具を使い、通常の3倍以上の手間をかけています。全ては理想とする酒造りのための労力。藏を案内してくれた栽培醸造部のI氏も「本当に好きでなければできない仕事」と言っていました。
直営レストラン
藏からは離れていますが、海老名駅のすぐ近くに「蔵元佳肴(くらもとかこう)」という、直営レストランも経営されています。こちらでは現6代目蔵元が惚れ込んだ料理長による、地元の食材をふんだんに使用したコース料理と、藏が醸す様々な「いづみ橋」のシリーズとのペアリングなども楽しめます。
地域とともに歩み、地元生産者、風景、土壌や生態系にまで想いを馳せる泉橋酒造。
こちらのシンボルマークでもあり、秋に田んぼを飛び交うたくさんの赤とんぼが、その想いを代弁してくれている様です。