9月16日、ベルサール東京日本橋でGI喜多方のスタートアップイベントが開催されました。2024年12月に認定されたGI喜多方の蔵元と日本酒が一堂に会し、理解を深めることを目指したイベントです。
当日は、基調講演「GI喜多方の解説」や蔵の方々によるトークイベント、そしてGI喜多方の日本酒とペアリングを楽しめる交流会が開催されました。
この記事では、交流会の様子を中心にお届けします。
目次
GI喜多方とは
GI喜多方とは、福島県の喜多方地方で醸された日本酒だけに与えられる地理的表示(GI)です。産地の証明だけではなく、高い品質の証でもあります。GI喜多方は、水(飯豊山の伏流水)、米、長い歴史の中で受け継がれてきた蔵人の技が織りなす日本酒です。
喜多方市内には現在11の酒蔵がありますが、今回のスタートアップイベントでは、GI喜多方の認証を受けた日本酒を醸す8つの酒蔵が参加しました。
・峰の雪酒造場
・吉の川酒造店
・会津錦
・笹正宗酒造
・大和川酒造店
・夢心酒造
・ほまれ酒造
・喜多の華酒造場
事前に行われた基調講演では、喜多方がなぜ魅力的な日本酒の産地なのかを、福島県酒造組合特別顧問の鈴木賢二さんがわかりやすく解説されていました。福島県の日本酒を全国トップレベルに引き上げた立役者で、“日本酒の神”とも呼ばれている人物です。詳細は、次回以降の記事でご紹介します。
交流会の様子
交流会では、各酒蔵のブースで2種類の日本酒とベルサール提案のペアリングが楽しめました。
大和川酒造
【提供された日本酒】
・純米大吟醸 弥右衛門(GI喜多方認定酒)
・純米辛口 弥右衛門(GI喜多方認定酒)
最初の一杯は、「純米大吟醸 弥右衛門」。実はこれが初めての喜多方の日本酒となりました。
華やかな香り、柔らかい飲み口、しっかり広がる旨味、キレという、基調講演で聞いたGI喜多方の特長そのもので感動です。
▼代表社員の佐藤雅一さん。「喜多方ラーメンの一番おいしい食べ方は、喜多方の日本酒をたくさん飲んで、二日酔いで啜ること」と説明され、会場を沸かせていました。
夢心酒造
【提供された日本酒】
・純米大吟醸 奈良萬(GI喜多方認定酒)
・純米吟醸 奈良萬(GI喜多方認定酒)
続いて、「純米大吟醸 奈良萬」。
1杯目と同じ純米大吟醸ですが、黄桃のような異なる種類の香りと甘やかさを感じます。口に含むと香りのイメージよりも噛み応えのような力強い印象と爽やかなキレがあり、飲み飽きない味わいです。
ペアリングは福島産アスパラなどの野菜スティックを酒盗ソースで。アスパラの青い香りや酒盗の癖のある香りにも寄り添っていました。
もう1本の「純米吟醸 奈良萬」もいただいたのですが、米の旨味や味わいの深さを感じながらもさっぱり。どちらも食と日本酒との融合という、喜多方の日本酒文化を象徴しているお酒だと感じられました。
▼代表取締役社長の東海林伸夫さんはGI喜多方の中心人物。交流会の締めのあいさつを任されていました。常に人に囲まれており、お話できなかったのが残念です。
ほまれ酒造
【提供された日本酒】
・喜多方テロワール EPISODE Ⅳ(GI喜多方認定酒)
・喜多方テロワール EPISODE Ⅱ Pasteurized(GI喜多方認定酒)
続いて試飲したのは、ほまれ酒造の「喜多方テロワール」シリーズ。山田錦を40%まで磨いた純米大吟醸の「EPISODE Ⅳ」と、夢の香(精米歩合70%)と福島県が開発した「うつくしま夢酵母」で仕込んだ純米無濾過原酒の「EPISODE Ⅱ Pasteurized」です。喜多方産の酒米を使用して地域の個性を表現していくシリーズで、ほまれ酒造の考える“喜多方のテロワール”を体感できるような、旨味とキレ、美しさを感じる日本酒でした。
ペアリングは、ほんのりと柚子の香りがする会津味噌田楽です。「EPISODE Ⅱ Pasteurized」と合わせてみると、違う表情が引き出され、複雑さが際立ちました。
▼「EPISODE Ⅱ Pasteurized」を手にする代表取締役社長の唐橋裕幸さん。今回のイベントで進行を務めたフリーアナウンサーの唐橋ユミさんのお兄さんです。普段は眼鏡をかけていないそうで、妹さんから眼鏡姿をからかわれるという仲の良い様子がみられました。
吉の川酒造店
【提供された日本酒】
・会津吉の川 純米原酒(GI喜多方認定酒)
・会津吉の川 純米酒
こちらでは、最初に「会津吉の川 純米酒」をいただきました。
若いメロンやスイカの皮のような爽やかな香りと米の旨味が印象的で、ペアリングのハーブと塩麴のソースでいただくメカジキの香りや繊細な味わいと相性抜群。写真は撮り損ねてしまいましたが、個人的にはベストペアリングです!
また、交流会のしめに「会津吉の川 純米原酒」を。純米原酒は、甘やかさ、米の旨味、酸のバランスの良さが際立ち、キレが美しく、締めくくりにぴったりでした。
▼冠木大輔さん。現当主・冠木孝さんの息子さんです。
喜多の華酒造場
【提供された日本酒】
・純米吟醸 蔵太鼓(中汲み)(GI喜多方認定酒)
・純米吟醸 喜多の華(金)会津産山田錦
こちらでは「純米吟醸 蔵太鼓(中汲み)」をいただきました。中汲みとは、酒造りの搾り工程の中で、圧力をかける前に流れ出る「あらばしり」の次に抽出される部分であり、最も香味のバランスが優れており、品質が安定しています。ちなみに、中汲みの後の最後に抽出される部分は「せめ」と呼ばれています。
パンフレットには、“女性ならではの華やかなお酒を作っています”と紹介されています。その通りのきれいさがあるのですが、同時に芯の強さ(米の旨味)を感じるお酒でした。永遠に飲んでいたいようなお酒です。
▼製造責任者の星里英さんは、一度社会人を経験してから一念発起して醸造を勉強し、実家である喜多の華酒造場を継いだとのこと。GI喜多方の層の厚さを感じる味わいと造り手です。
笹正宗酒造
【提供された日本酒】
・特別純米 ささまさむね(GI喜多方認定酒)
・純米吟醸 ササ正宗(GI喜多方認定酒)
こちらでは「特別純米 ささまさむね」を試飲。酸味の感じ方がほまれ酒造と似ているなと感じたのですが、調べると場所的にとても近い酒蔵でした。トークショーでは「喜多方は酒蔵が集中しているけれども、場所によって水の味わいが全然違う」という話が出ており、これがその違いなのかなと感じてとても興味深く、現地でその違いを体感してみたくなりました。
味わいは、シーフードに合いそうなすっきりさ。この時間になるとほとんどのペアリングフードが売り切れており、こちらのペアリングであるホタテのカナッペと一緒に味わえなかったのが悔やまれます。
会津錦
【提供された日本酒】
・純米原酒 -ku-(クウ)(GI喜多方認定酒)
・にじのきらめき 純米吟醸
酒造好適米ではなく、食卓に上がるお米でお酒を造っている酒蔵です。こちらでは、お米の名前の付いた「にじのきらめき 純米吟醸」を。にじのきらめきは、近年の温暖化に対応したお米だそうです。
さっぱりとしたライトな味わいながらも存在感のある一杯。GI喜多方の認定酒ではないとのことですが、きれいな余韻は終盤のちょうどいいリセットになりました。GI喜多方の認定は、画像右の「純米原酒 -ku-(クウ)」が受けています。
峰の雪酒造場
【提供された日本酒】
・大和屋善内 純米生詰(GI喜多方認定酒)
・大和屋善内 純米吟醸(GI喜多方認定酒)
こちらでは、「純米生詰 大和屋善内」をいただきました。落ち着いた中に味わいの層が感じられ、フレッシュな料理だけではなく、クリーミーな味わいの料理にも合わせてみたいと思いました。GI喜多方の奥深さが実感できる1本です。
コンパクトな産地に詰まった魅力を実感
短時間でGI喜多方の日本酒を一度に味わえる、充実した交流会でした。交流会の前に行われたトークイベントでは、峰の雪酒造場の代表取締役である佐藤健信さんが「喜多方の日本酒造りの魅力のひとつは、人の良さ」と語っていたのですが、その言葉通り、会場全体から“人の良さ”がにじみ出ているような温かな雰囲気でした。
また、海外マーケットも視野に入っているとのこと。私は以前、アメリカで日本酒の販売をしていた経験があるのですが、GI喜多方は日本酒らしいふくよかさと食事に合わせやすいキレがあり、海外の日本酒初心者から愛好家まで、幅広い層にすすめやすいと感じました。
GI喜多方は、酒蔵を歩いて回るイベントがあるほどコンパクトな産地ですが、味わいは多彩。飲めば飲むほど、ぜひ現地を訪れてみたい、もっと知りたいと感じるような、GI喜多方の魅力が伝わる時間でした。