世界でも質の高い新興ワイン産地として認識されているニュージーランド。
その豊かな自然や、ラグビーの話題などでメディアに紹介されることも多くなってきました。日本からは遠いですが、比較的行きやすい国でもあり、ワインツーリズムを考える上でも候補地のひとつになるでしょう。
別のコラムではオールブラックスの故郷、ニュージーランドでお勧めのワイナリー3選として、比較的有名でアクセスしやすく、観光客にも人気のワイナリーをご紹介しましたが、このコラムでは“裏3選”としてちょっとマニアックなおじさんたちがいるワイナリーをご紹介します。
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ジュラシック・リッジ Jurassic Ridge
先のコラムでもご紹介した、オークランドはワイヘキ島の人気ワイナリー、マッドブリック。そのすぐ隣の敷地にあるのがここ「ジュラシック・リッジ」。お隣とは違ってこじんまりとした感じです。
セラードアーがオープンする11時を待って訪問。すると建物前のテラスでくつろぐワイナリースタッフと思しき3人。近寄っていくとコワモテのおじさんが無愛想に、「いまティータイム中だから、畑でも見てなさい」と。オープンと同時にお客さんが来ることは想定していないのでしょうか。言われる通り畑を散歩すること30分ほど、そろそろ良いかと思って戻ってみると、まだティータイム中。とりあえず声をかけてみると、ようやくセラードアーに招き入れてくれました。
この方の名前はランス氏、創業者でありぶどう栽培、ワインメイキングからセラードアーでの応対まで、すべてが彼の仕事。冒頭の不愛想な応対とは打って変わって、自分が造るすべてのワインを試飲させてくれ、それらを前にアツく語ってくれました。
奥様がイタリアのカンパーニャ州ご出身ということで、入り口にはイタリア国旗も掲げられ、ワインもモンテプルチアーノやピノグリージョなど、イタリア系の品種も造っています。
モンダヴィやサッシカイアといった有名ワイナリーとも関係のあるコンサルタントのアドバイスによって生み出されたこちらのワインは、どれも質感が高く満足のいくものです。
ところでトリップアドバイザーなどのツーリズムサイトにて数あるレビューを見ても、こちらの応対に関しては賛否両論であり、私と同様に待たされたり傲慢だとする書き込みもありました。裏を返せば間違いなく個性的なワイナリーであり、それを楽しむ余裕と心構えがあれば、必ずや思い出に残る一軒になるでしょう。
カー・ファーム・ヴィンヤード Kerr Farm Vineyard
オークランドの中心からモーターウェイで30分ほどの場所にある生産地域クメウ。いくつかの有名ワイナリーに混ざって、裏の方にひっそりとこのワイナリーは佇んでいます。
元宝石商というジェイソン・カーさんが起こしたこのワイナリー、自宅兼セラードアーのまわりに決して広くはないですがぶどう畑が広がっています。
訪問すると玄関を入ってすぐの応接間がテイスティング・ルームです。ジェイソンさんは柔和なおじさんという感じで、いつ訪れてもにこやかに応対してくれます。
こちらでは彼がこの国で初めて植えたというピノ・タージュ種のワインも含め、ひと通りのワインを彼の説明付きでゆっくりテイスティングさせてくれます。
彼のワインはもちろんどれも美味しいものですが、やはり特筆すべきは、いわゆる西洋建築の普通の一軒家の応接間にお邪魔して、ワインメイカーである家主から直接ワインの説明を受けるというのは、なかなか貴重な経験になるのではないでしょうか。
中小のいわゆるブティックワイナリーが多いニュージーランドでは他にもこのようなワイナリーがあって、大きく整備されたワイナリーなどでのテイスティングとはまた違った雰囲気が楽しめます。
スペイド・オーク・ヴィンヤード Spade Oak Vineyard
ぶどう畑の中の道を奥まで入っていくと、大きい母屋とその脇に小さいほったて小屋。さてセラードアーはどこかとキョロキョロしていると、母屋の方からのっしのっしと大柄な男性が近づいてきました。この国第3の生産規模を誇る産地ギズボーン。大手のワイン生産者であるモンタナでワインメイカーを務めた後、この地で自らのワイン造りを始めたスティーブ・ヴォイシー氏その人です。
氏に招き入れられたのが例の小さいほったて小屋、そうここが彼のセラードアー。
挨拶もそこそこに彼のさまざまなワインが並べられ、人懐こくにこやかに色々説明していただきました。
彼はこの地で広く栽培されているシャルドネのほかに、テンプラニーリョやサンローラン、プティ・マンサンなどこの国では珍しい品種も造っています。ニュージーランドで初めてプロセッコからスパークリングワインも造りました。畑にはホップも植えられており、ゆくゆくはビールも造りたいとのこと。
業界では広くコンサルティングも務め、自身のワイナリーではゆったりと且つ様々な試みをしている姿が伺えます。
短期の旅行で彼らに会うのは簡単ではありませんが、行く機会に恵まれたら一味違った経験が出来ることでしょう。このような小さなワイナリーを訪れるときは、必ずアポイントを取ってから行きましょう。無料で試飲させてくれるところもありますが、マナーとしては最低でも一本は購入することをお勧めします。もっとも日本未導入のワインが多いですから、購入は必須かもしれませんね。