ワインを飲む時、背景にはどんな⾳楽が流れていますか?
ロック、ポップ、ヘヴィーメタル、クラッシックにボサノヴァ、はたまた歌謡曲や演歌?
⼀枚板のカウンターに座り⼼地の良い椅⼦が置かれたお洒落なバーは、しっとりとした⼤⼈の雰囲気で、⽿⼼地の良いジャズが流れていますね。
家でワインを飲むなら、あなたが好きなアーティストの曲を何となく流していたり、テレビが付けっぱなしなのかもしれません。
ワインとBGMには何かしらの関係があるようですよ。今回はちょっと⾯⽩い実験をご紹介します。
目次
実験1)BGMの種類はワインを購⼊する時の⾏動に影響を与える?
@Adrian North & David Hargreaves
【実験内容】
スーパーマーケットの⼀⾓にあるワインコーナーの棚上にスピーカーを設置。
4つある棚には、いずれもフランス産とドイツ産のワインを50%ずつの割合で陳列。両国のワインが公平に競えるよう、それぞれの棚には価格や味わいの似たものを配置しました。スピーカーからはフランスとドイツの⾳楽を流し、どの⾳楽が流れた時にどのワインが売れたのかを観察しました。
【実験結果】
ドイツの⾳楽が流れるとドイツ産ワインはフランス産よりも2倍の本数が売れました。
フランスの⾳楽が流れるとフランス産ワインはドイツ産よりも5倍の勢いで売れました。
しかも、この実験中に⾳楽がワイン選びに影響を与えたことに気がついた⼈は7⼈に1⼈の割合でした。
この実験がどこで⾏われたのかを論⽂の中からは読み解くことはできなかったのですが、研究者のお⼆⼈はイギリス⼈。⽇本⼈の私はフランスとドイツの⾳楽とを聞き分ける⾃信はありませんが、こんな楽しい実験なら被験者の1⼈になってみたいものです。もしもお酒の陳列コーナーで懐かしの歌謡曲が流れていたら、何となく⽇本のワインを⼿に取ってしまいそうです。いやいや、そこはやっぱりライスワイン、⽇本酒なのかしら?
実験2)ポップスvsクラッシック BGMはワインの購⼊⾦額に影響を与える?
@Charles Areni & David Kim
【実験内容】
アメリカの⼤都市で2カ⽉間に渡り実施されたこちらの実験は、ワインコーナーでポップスとクラッシックのBGMを流し、顧客のワイン購⼊パターンを観察すると⾔うものでした。
【実験結果】
明らかな事実が判明してしまいました。
ポップスを流しても顧客の購買パターンには何の影響も与えず、いつも通り同じ味わい、同じ価格帯のワインを購⼊しておしまい。
ところがクラシックを流すと、明らかに⾏動が変わりました。優雅で裕福な気持ちになり、購⼊本数に変わりはないものの、いつもよりも⾼いワインを選んだというのです。それも、少し⾼いのではなく、3倍以上も⾼いワインをです。
これは衝撃的です!ワイン選びに夢中で、購⼊時に流れているBGMに積極的に⽿を傾けたことはありませんでした。もしかすると、うっかりご予算以上のワインをカゴに⼊れてしまっていたのかもしれません。
実験3)BGMはワインの愉しみ⽅にも影響を与える?
@Peter Stone and Susan Hickey
【実験内容】
ロンドンで開催されたワインの試飲会。参加者たちは1〜5の番号のついたワインを順番に愉しんだ後、それぞれのワインについて感想を答え、最後に⼀番好きなワインを選ぶという実験です。
試飲会の開始当初に流れていたのは、透明感のある⽢やかなドビュッシーの「⽉の光」(ジョージ・クルーニーをはじめ豪華な俳優陣が勢揃いした映画 “オーシャンズ11” のラストシーンを飾った曲)。
そして、試飲をしている間にBGMはゆっくりと変わり、最後は壮⼤で勇ましいワーグナーの「ワルキューレの騎⾏」(フランシス・コッポラ監督の映画 “地獄の黙⽰録” の戦場シーンの曲)でした。
【実験結果】
参加者に公表はしませんでしたが、最初に出された1番のワインと最後の5番のワインは同じものでした。ですが実験参加者の回答では、1番のワインは⽢美でまろやか、5番のワインは⼒強くヘビーな味わいと評価されました。BGMの曲調とワインの味わいが関連付けられることが分かったのです。
実験4)BGMはワインの味わいの感じ⽅にも影響を与える?
@Adrian North
【実験内容】
上記の実験をさらに掘り下げたのがこちらの実験と⾔えるでしょう。
数グループに分かれた参加者に無料のワインを提供し、試飲の最中に4種類のBGMを流しました。
BGMとして選ばれたのは、以下の異なる曲調の4つです。
・⼒強くヘビー
・繊細で上品
・元気でフレッシュ
・⽢美で柔らか
【実験結果】
参加者にはBGMの重要性について⾔及せず、通常の試飲会として開催しました。試飲の後、ワインの味わいが「ヘビー」「上品」「フレッシュ」「⽢美」のいずれに当てはまるのかを評価してもらうと、味わいとBGMの曲調を結びつける傾向がありました。
試飲⽤に提供されたワインは、すべて同じカベルネ・ソーヴィニョンでした。そして、参加者たちは無料のワインを楽しむことに夢中で、BGMがどんな曲調だったかは殆ど気に留めていなかったのです。
⼈が⾷べ物を美味しいと感じる時、その満⾜度を100%と設定しましょう。料理そのものの味わいは5%、⾷器やカトラリーが25%、残りの70%は⾷空間の環境だと⾔われています。実験結果が表す通り、BGMがワインの選び⽅や味わいに影響を与えることにも頷けます。
お供には…”マカロニチーズ Mac'n Cheese”
こちらの肖像画のお⽅。
ライオンヘアーに吊り上がった眉、何かを我慢しているかのようにキュッと結ばれた⼝元。⼩学校の⾳楽室に飾られていた肖像画の中でも、⾒る⼈を睨みつけるような厳しいお顔は⼀際⽬⽴っていました。年末に流れる「第九」やジャジャジャジャーン!の「運命」の作曲者、2020年に⽣誕250周年を迎えた⾳楽家のルードヴィッヒ=ヴァン=ベートーヴェンです。
それにしてもなぜ、彼はこんなにも不機嫌な顔で描かれてしまったのでしょう?
⽣涯独⾝、散歩をルーティンワークとし質実剛健を好む彼の⾷⽣活はとてもシンプルでしたが、そんな彼にも⼤好物がありました。熱々のショートパスタにたっぷりのチーズを絡ませたマカロニチーズです。
肖像画を描く当⽇、⾷事の世話をしてくれる家政婦がこの料理を作りました。ですが、マカロニを茹で過ぎてしまった?強⽕で焼き過ぎて焦がしてしまった?あるいは、量が少なかった?とにかく、彼にとっては気に⾷わない朝⾷だったからだというのです。
マカロニチーズはその名の通り、茹でたマカロニにチェダーチーズのソースをたっぷりと絡めた料理。発祥のイギリスからアメリカに伝わり、⼿軽な家庭料理、学⾷の定番、⼦供たちに⼤⼈気のメニューです。後世に名を残す天才⾳楽家が、50歳を過ぎても素朴でちょっとジャンキーな味を好んでいたというのは何とも愛おしいです。
ドイツの南側の地域には“ケーゼシュペッツレ Käsespätzle”という伝統料理があります。 ドイツ語でケーゼ(Käse)はチーズ、シュペッツレ(Spätzle)は⼩⻨粉や卵、塩などをこねた⽣地から作ったショートパスタのことです。
ドイツの⻄側の都市、ボンで⽣まれたベートーヴェン。彼の⺟親は宮廷の料理⻑の娘でした。ドイツ⾵のマカロニチーズ “ケーゼシュペッツレ” は、料理の知識が豊富な⺟の⼿料理の味だったのかもしれませんね。