ワインテイスティングの流れは、まず、ワインの外観の色を見て、香りをとり、口に含んで味わいと舌触りをとらえる。視覚、臭覚、味覚、触覚、4つの要素で構成されています。食生活のシーンは日々変化をしていて「食は五感で楽しむ」と言われますが、テイスティングの基本となる動作の中には聴覚が含まれていないのです。
「ものを食べたり飲んだりするときには品よく、音を立ててはいけません。」と、食事の礼儀作法を習いましたが、改まった席ではない庶民的なレベルでは、少し元気な音がする方が活力を感じられます。映像がなく、読み手がそれぞれ想像の世界を広げることができる小説では、音をイメージさせる言葉がより生き生きとした雰囲気を伝えてくれます。
物事の様子や心の動きを音で象徴的に表す言葉、それが “オノマトペ(onomatopée 仏)”です。
日本語は他の言語と比べて3~5倍、約4,000~5,000語のもオノマトペが存在するそうです。動詞の数が少なく、それを補うためにオノマトペが進化したというのが一説です。
目次
飲む動作を表現するオノマトペ
・がぶがぶ
勢いよく続け様に飲み物を飲む音
・ぐいっ
グラスに入ったアルコールや液体を勢いよく飲む音
・ごくごく
喉を鳴らして飲み物を飲む様子、そのときに喉が鳴る音
・スルスル
液体が口の中に滑らかに流れ込む時の様子を表す音
・ちびりちびり
液体を少しづつ飲む様子、動作の感覚が少しあく感じ
・ツィー
敬愛する飲兵衛作家さんが本日一杯目のお酒を口にする時に使う音
ほどよい勢いとお酒への愛情が伝わる秀逸なオノマトペです。
・ズズズズズッ
ワイン生産者やソムリエが、ワインの香りが立つよう、わざと空気を含ませて啜る音
酔っ払ってしまっては判断が鈍るため、飲み込まずに香りをチェックするテクニックです。
「ぐいっ」「ごくごく」は夏の暑い日に汗をかいてカラカラの喉を潤す豪快なビール、「ちびりちびり」は舐めるように少しずつ口に含む日本酒が似合いますね。
ワインを飲むときは 「同じ空間で過ごす人を尊重する」のが礼儀作法です。不快な音を立てないことも礼儀のひとつですから、飲む動作にしっくりくるオノマトペが見当たらないのでしょうね。
ワインの様子を表現するオノマトペ
・しゅわしゅわ
グラスに注いた発泡性ワインの様子
ビールやコーラ、発泡性の飲み物には何にでも当てはまる守備範囲が広いオノマトペです。
・ピチピチ
冷やして暑い日に飲みたい微発泡白ワインの様子
とれたての魚が跳ねたり、中身がいっぱいで弾けるような元気な様子は、フレッシュで若々しいワインが似合います。
・ぽんっ
スパークリングワインの栓を勢いよく開けるときの音
伝統的には「すぅ~」っと、まるでワインの瓶からため息が漏れるように静々と抜栓するのですが、私たち日本人は景気良く豪快なシーンでスパークリングワインを飲むことが多いです。お祝いの席にため息が漏れるのは困りものですから、これはマナー違反でも大目に見ていただきたいものです。
・とろん、とろりん
濃度の高い甘口のデザートワインがグラスの中でゆっくりと揺れ動く様子
日常的に飲む方は少ないかもしれませんが、甘いワインとチーズは、食事の締めくくりを優雅に演出してくれる素晴らしい組み合わせです。
オノマトペは、時代とともに変化し、新しく創り出せるものらしいのです。
確かに、今の電車は「シュシュポッポ」とは動きませんし、電子レンジも「チン」とは鳴りませんものね。
いつか、ワインを美味しく飲む様子を表現するオノマトペを発明してみたいものです。
お供には…儚い口溶け ”ロックフォール-Roquefort”
「ワインには憧れるけれど、ワインスクールに通うのは敷居が高くて気後れするなぁ。」そこで私が思いついたのがチーズを学ぶことでした。
ワインを一口飲めばチーズに手が伸び、チーズを口にするとワインがより美味しい。ワインの最高のお供であるチーズを知ることでワインをより楽しめると考えたのです。
ある日の講義のお題目はブルーチーズ。
世界三大ブルーチーズと呼ばれる「フランスのRoquefort (ロックフォール)」、「イタリアのGorgonzola (ゴルゴンゾーラ)」、「イギリスのStilton (スティルトン)」を食べ比べ、その違いを理解するというものでした。
ブルーチーズを食べたことはありましたが、異なる3種類を同時に比較したことなどあるはずもなく、それはそれは衝撃を受けました。ロックフォールには明らかな特徴があったからです。
「ロックフォールは食べればすぐにわかりますよ。口どけが違いますから。」と、仰られた講師の先生の笑顔を今でも鮮明に覚えています。
青カビの入り方にもそれそれ特徴があり、外観で見分けることもできます。
(写真左から)
・静脈状に広がるスティルトン
・大理石状に広がるロックフォール
・パセリ状に広がるゴルゴンゾーラ
ロックフォールはその製法上、他のチーズよりも塩味が強いのですが、独特のコクとクリームのような甘味が塩分とよく合い、青かびの華やかな香りとピリっとしたシャープな刺激のある味わい深いチーズです。牛乳性のゴルゴンゾーラやスティルトンと比較して、羊乳性のロックフォールは乳脂肪分が高いため「バターのような口どけ」とよく紹介されています。
今、この記事を書きながらロックフォールを口に入れワインを飲んでいます。脂肪分が纏わりつくような印象はなく、口の中でサラサラと崩れる儚さは、紅葉した葉っぱが風に乗って舞い落ちる「はらはら」というオノマトペがよく似合います。
秋からクリスマスシーズンにかけて旬を迎えるロックフォール。他のチーズにはない口溶けをぜひお楽しみください。