目次
古代の海が作る空知のテロワール
古代の海が作る空知のテロワール
2017年11月初旬、北海道のワイナリー事情を探るため空知地方を取材してきました。
空知地方は北海道の中央西側に位置し、岩見沢市や滝川市などを中心として形成されている地域です。
札幌市内から車を1時間半ほど走らせ、まずは達布山展望台へ。
小高い丘に建つ展望台に登ると、足元には数日前の残雪が凍りつき、冷たい風が吹き付けていました。そこから360°俯瞰してみると空知地方の地形がよくわかります。
紅葉に燃える山脈に雪の冠のコントラストが美しい。
昔は海だったというこの一帯は、海底が隆起し割れてできた土地のため、現在は”古第三紀”から”第四紀”までおおまかに9つの異なった地層で形成されているということです。
古代の海が作るテロワール。展望台の下にはそれを示す看板も設置されていました。
複雑に入り組んだこの地層が、空知の特徴的な土壌となりワイン造りに大きく関与しています。
ワインと共に歩む第三の人生
北海道はかねてから国内有数の醸造用ブドウの産地でしたが、昨今の日本ワインブームが引き金となり、空知地方は余市地方に続く新しいワイン産地として注目されています。ここ数年は道外からの就農者も多く、ワイナリーやヴィンヤードの数は年々増え続けています。
そんな中でも比較的新しい[TAKIZAWA ワイナリー]さんを訪問しました。
ブドウ畑に挟まれた道を登っていくと、見えてきたのはキャラメルボックスのようにかわいらしい建物。白樺の木を抜けると「仕事の邪魔をしにきたのか?こんな良い天気の剪定日和に!」とオーナーの滝沢さんが冗談まじりに出迎えてくださいました。 ここ数日の雨続きで本音がちらり。
滝沢さんは、農のある自然とむきあう暮らしを求めて2004年に三笠で開墾をはじめ、現在3haの畑にピノ・ノワール、ソーヴィニョン・ブラン、シャルドネを栽培しています。
高校時代に地元の中標津から横浜へ出て、大学卒業後は広告代理店に勤務。20代半ばで北海道に戻り札幌で珈琲のチェーン店を経営していたという滝沢さん。50代にはすでに大きくなっていたビジネスを売却し、夢でもあったブドウ栽培とワイン醸造の世界に入ったという異色な経歴の持ち主です。
10年後を見据える情熱のワイン
今は客商売から解放されてワイン造りが楽しくて仕方がないと言い、南を向いた斜面にある畑の日照の良さ、この土地は水はけが良いのでブドウの栽培に適している、など嬉しそうにお話してくださいました。
それでは反対に北海道の地ならではのご苦労もあるはず、と逆にお伺いしたところ、返ってきたのはやはり長い冬の厳しい寒さでした。
長期に渡る積雪への対策として、仕立ての角度を斜面下向きにコントロールしたり、樹高の制限などの工夫をされているそうで、その言葉ひとつひとつにブドウ栽培への情熱を感じます。
情熱はワイン醸造にも注がれていて、テイスティングさせていただいたミュラー・トゥルガウのスパークリングは、生き残った野生酵母を使って瓶内二時発酵させているという拘りようで、どこまでも自然な味わいです。
最後にはなんと、すでに完売したはずの”Takizawa Blanc 2016”(タキザワ・ブランはシャルドネ主体の白ワイン。オーセロワ、シルバーナ、ソービニョン・ブランのブレンド。樽熟成は8ヶ月以上)をサプライズで出してくださいました。
訪問の前週にシャブリの生産者が来訪し、テイスティングした際に「こんなシャルドネが日本で作れるのか!?」と絶句したというワインです。
[TAKIZAWA ワイナリー]さんのワインは道内の酒販店、空港売店のほか、首都圏の百貨店などでも購入することができます。
2008年の初リリースから今年で10年、これから10年後にワインがどうなっているかその時に真価がわかる、と遠くを見つめる姿が印象的でした。
日本ワインの愛好者にとっても、この先ますます楽しみなワイナリーです。
“空知ヴィンヤードウォーク”は、さっぽろアフタヌーン実行委員会が主催する空知地方を楽しむツアー。次回はツアーの続きをご紹介します。