月に数回必ず行っていた行きつけが当面の間休業になってしまった。ここでいつも季節のお酒に出会っていたのに、どうやって新しい酒に出会おうか。そんなことを考えているうちに、昨年(2025年)末に飲んだ酒を振り返りたくなった。
12月頭、一応初冬に入るのだろうか。燗酒でも良いシーズンだが、敢えて冷酒と常温で味わった酒を見ていこう。
目次
【1杯目】山口 大嶺酒造 「大嶺3粒 冬のおとずれ」

大嶺酒造は山口・美祢(みね)の蔵。1822年創業、いったん休業したのち2010年に復活し、洗練されたボトルデザインでも知られている。今回の「冬のおとずれ」など、正にその典型例だろう。びっくりするほど綺麗なデザインで、ジャケ買い(=ラベル買い)してもおかしくない。
「冬のおとずれ」は季節限定の活性にごり酒だ。瓶の中で淡雪のように泡や澱(おり)が舞い、香りは柔らかでフローラルな感じさえする。口に含むと、まずピチピチとしたガス感が来て、米由来の旨みと酸味が後からグッと押し寄せてくる。甘さはあるのに重くならず、最後にすっと消えていく後口が良い。ワイングラスで香りを開かせても面白そうなお酒だ。
澱……米のかけらや酵母などの細かな固形物のことで、醪(もろみ)を搾った直後の日本酒に含まれている。
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ちなみに「活性にごり」は、瓶内に発酵由来の炭酸ガスが残っているタイプのにごり酒のこと。にごっているが、ただ「濃い」というわけではなく、澱が旨みになっている面白い酒でもある。開栓時に吹きこぼれやすいので、振らずに、少しずつガスを逃がしながら開けるのがお作法だ。
【2杯目・3杯目】鳥取 太田酒造場 「辨天娘(べんてんむすめ) CROSS CLIMATE」、広島 竹鶴(たけつる)酒造 「竹鶴 CROSS CLIMATE」

鳥取で通好みの酒を醸す太田酒造場、広島の老舗の竹鶴酒造。
これは、お互いの酒米を交換して仕込んだ「飲み比べ」実験企画。
辨天娘は竹鶴側の「改良雄町」を、竹鶴は辨天娘側の「玉栄」を用いて、どちらも酵母無添加の生酛造り、精米歩合は同じく75%。
これだけ条件を揃えたうえで、米が変わるとどこまで味が変わるのか、そしてどこまで蔵の味が残るのか。もともとの味と比べてみるのも面白い。
辨天娘は、飲むとふくよかな旨みがありながら、酸が真ん中にあるから味わいが濃くなりすぎない。香りはちょっと甘く、ウッディさも感じる。肴を呼ぶ辛口に、常温でもキレがあって、飲みごたえ抜群。
竹鶴の方はと言えば、色合いは光沢ある山吹色。香りにも熟成の気配があり、口に含むと厚みのある旨みがゆっくり広がっていく。酸とともに、余韻がずっと居座るのが厚みの証拠。燗酒にしないでも、料理の脂や塩気を受け止めてくれるように感じた。
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写真を見ていたら、店が懐かしくなってしった。今年、いつ頃からまた行けるのだろうか。過去のエッセイなど見て寂しさを紛らわせながら、新酒や春酒を待つ。
