神奈川県海老名市にある酒蔵、泉橋酒造の直営レストラン“蔵元佳肴(くらもとかこう)いづみ橋”にて、ペアリングディナーを楽しんできました。
目次
海老名のこだわり酒蔵
以前のコラムでも取り上げました、日本酒いづみ橋を醸す酒蔵「泉橋酒造」。このコラムはその続編ともなります。
いま一度簡単にご説明しますと、泉橋酒造は「栽培醸造蔵」として、地元神奈川県海老名市周辺の米農家と共に酒造米の栽培に取り組み(一部完全自社栽培)、こだわりぬいたお米を表現するために、アルコール添加酒を切り捨て、リリースする全てのお酒を純米酒とした「全量純米蔵」に転換。お米は全て減農薬および無農薬、醸す日本酒も、全製品の半分を労力のかかる“生酛仕込み”、そのほかにも手間のかかる伝統的な造りを実践する、こだわりの酒蔵。
自分たちのお酒を造り上げるために栽培から取り組み、そしてそれを消費者に完璧に味わってもらうための場としての直営レストラン、“蔵元佳肴いづみ橋”が用意されました。
こだわりを託された漢
酒蔵自体は海老名駅から少し離れたところにありますが、この直営レストランは駅のすぐ近くに位置しています。
こだわりの酒に合わせるこだわりの料理を創るのは、酒蔵の現6代目蔵元が惚れ込んで仙台から呼び寄せた根本料理長。五感を使って、もっと自由にもっと楽しく、そんな料理の提供を目指しています。
佳き酒、佳き肴
私が訪れたのは11月、蔵元おまかせ晩秋の“霜月の献立”を、日本酒のペアリングとセットでいただきました。
一品目は“渡り蟹 帆立 菊花浸し ~蟹美味出汁 振り柚子~”。
合わせるのは“生酛 うすにごり 神力”。近隣の座間市で造られた、精米歩合50%の神力を、花冷えで頂きます。
スターターとしては間違いのない組み合わせ。柚子の効いた旨味のある蟹出汁とうすにごりのお酒の旨味が程よくマッチ。復活米“神力”、良い質感です。
二品目は“吹き寄せ 柿とキウイの白和え~蔵王鴨 糀蒸し物~”。
フルーツの自然な甘みを纏った白和えは、本当に良いですよね。これにはいづみ橋でのみ造られているお米“楽風舞”、精米歩合55%のしぼりたて新酒を花冷えで合わせます。
綺麗な酸味と甘み、フレッシュ感がフルーツに寄り添います。軽めの酒質で、料理との重さのバランスも良いです。
三品目はお造り、“煽り烏賊 ひがしもの 金華鯖”。
ひがしものは料理長のご出身、宮城県は塩釜で水揚げされる、めばちマグロのこと。金華鯖も宮城のブランド鯖ですね。
お酒は花冷えの雄町純米大吟醸。香り高くフルーティ、味わいはしっかり。
お刺身はそれぞれテクスチャーが違いますが、個人的には金華鯖との相性が良かったですね。この鯖、脂のりが良いわりに非常にさっぱりで、大吟醸の華やかさが彩を添えます。青魚の軽い酸味も甘みのある吟醸系と合わせやすいです。ねっとりした食感のイカには、舌の上をさっぱりさせるマッチング、まぐろも脂のりが良い部位の方により合わせやすい気がしました。
四品目は“せりと旬魚介で酒潮かぶら椀”に、涼冷えの“茜 黒とんぼ”です。
魚介は石凪、牡蠣、しうり貝。しうり貝はムールのことですね。非常に穏やかな味わいのお椀です。お酒はこれまで冷菜に合わせて花冷えでしたが、料理の温度も上がったので、お酒も少し温度をあげ涼冷えになりました。精米歩合70%の亀の尾を生酛で仕込んだお酒です。2年の熟成を経たお酒が、滋味深い味わいの椀によく合います。
そして五品目。頭からワタや骨、尾びれまでまるごと美味しく食べられる“さんま黄金煮”。
これはちょっと言葉がでない美味しさでした。思わず帰りにおみやげで購入したほど。
合わせたのは“秋とんぼ 雄町”。65%精米、しっかりとコクのあるお酒を上燗で。黄金煮の甘やかさと梅の酸味、ワタや皮を含めたさんまの複雑な味わいに、溶け込む様にマッチ。
そして締めのお食事は“はらこめし”、止椀になめこ汁です。
お酒はさんまに合わせたのと同じ秋とんぼシリーズですが、品種が山田錦。これを花冷えで頂きます。
歩合80%と低精米のお酒、よりナチュラルでしっかりした酸と旨味のある味わいは締めにはピッタリ。
コースの最後は甘味“柿 かぼす 糀 乳清のスープ ~林檎のコンポートを添えて~”。
これにはお酒は合わせませんが、酒飲みとしてはこちらでリリースされている粕取り焼酎“あますことなく”を一緒にいただきたいところです。
蔵元と料理長の想いが詰まったこのコース、お料理が7000円+お酒のペアリングが2000円となっています。(価格は税別)
こだわりの日本酒とお料理を満喫できる、なんとも贅沢なディナーでした。