いまとなっては希少種となった熱処理ビール、皆さんは飲んだことありますか?
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「とりあえず生」考
「とりあえず生で!!」。日本流行語大賞にノミネートされてもおかしくないこのフレーズ。別に昔からある言葉ではなく、使われだしたのはこの20~30年くらいなのではないでしょうか。すでに結構な年月が経っているようにも思いますが。
この場合の“生”とは、もちろん肉でも魚でも野菜でもありませんね、ジョッキで提供されるビールです。
しかし野菜はもちろん、肉も魚も生で食す文化の日本において、“生”という響きは“新鮮”ととることもでき、特別なものなのでしょう。実際海外に行くと日本の“新鮮”と海外の“Fresh”の考え方って、かなり乖離があるのに気づきますよね。それほど日本人にとっては食文化以外でも様々な分野において、この“生”という言葉が大きな意味を持っているように思います。
日本の飲酒文化において生ビールというのは、一般的にこの“飲み屋でジョッキ・ビールを注文する”に代表される、料飲店で提供される樽生ビールのことを指します。異論を唱える方もいるかもしれませんが、長年現場にいる立場としてビールの注文は、たとえ取り扱い瓶ビールが生ビール商品であっても、“生”か“瓶”にメニュー分けできることで証明されます。
そして現在、日本で売られている様々なビールは瓶も缶もほぼ全て“生ビール”となっています。
では生じゃないビールとはどんなものでしょうか。
熱処理の意味
かつては加熱処理されたビールが一般的だった時代がありました。加熱処理されているということは“生”じゃないのですね。これらを一般的に“熱処理ビール”と呼びます。
加熱の目的は殺菌と酵母の働きを止め、再発酵を防ぐことです。これはワインの殺菌法として19世紀半ばにルイ・パスツールによって考案されたパスチュライゼーションと呼ばれる方法で、現代では様々な食品にも使われています。加熱殺菌と言っても高温で煮立てるわけではなく、60度位の温度で決められた時間加熱殺菌するので、低温殺菌法とも呼ばれます。いわゆる低温殺菌牛乳もこの手法。余談ですが日本では日本酒造りにおいてこれよりもさらに前の16世紀に、すでに経験から“火入れ”という同様の手法で殺菌を行っています。
生ビールが当たり前の時代に
1967年、ミクロフィルターにより酵母を除去するという方法で、サントリーが日本では大手として初めて熱処理をしないビールを商品化しました。これがのちに日本においての生ビールの法的な定義となります。
それでもしばらくは熱処理ビールが一般的でしたが、80年代前半にはエビスが生ビール化、そして80年代後半に巻き起こる、アサヒスーパードライに代表されるドライブーム以降、瓶や缶の小売り生ビールが一般化していきます。
一方で現実に生ビールと熱処理ビールの違いはあるにせよ、一般消費者にはあまり違いは正しく理解されていなかったのではないでしょうか。どちらかというと料飲店で飲む“生ビール”という響きからくる広告戦略的な側面の方が強かったのではないかと思います。
以来、数々のビールが発売されましたが、そのほとんどは生ビールとなっています。
熱処理ビールの味わい
味わいの違いは確実にあり、筆者の様な年齢層には昔懐かしいビールの味わいとして好む要素になっています。このような消費者は一定量いると思われ、それがキリン・クラシックラガーやサッポロの赤星の再販などにつながっているのではないでしょうか。ひいては新しい消費者層の開拓にもつながり、ビールのひとつのタイプとしての認知にもつながっている様です。
一般的には熱処理の方が、重心が低くどっしりとしていて、しっかりかつ落ち着いた苦みと酸味がある様です。
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いま買うことのできる熱処理ビール
少し前までは“生”と同じく“熱処理”の表記がありましたが、最近の商品からは外されているのでわかりづらいかもしれません。
通常商品では、キリン・クラシックラガーのみと言ってよいでしょう。
90年代半ばに時代の流れで生ビール化したキリン・ラガー。あまりにもイメージが変わって不評だったからか(私もそう思った一人)、その数年後にはクラシックラガーとして再販されることになった熱処理ビールです。
アサヒ・スタウトという、一般にはあまり知られていない小瓶のみの商品もあります。入手も可能ですが、これはほぼ料飲店用と言ってもよいのではないでしょうか。
限定商品ではここ数年、一般向けに時おり缶で発売されるサッポロ・ラガーの通常とは違うもの、通称“赤星”も熱処理ビール。通常商品はもちろん生で、キリン・ラガーとクラシックラガーの関係と同じですね。ちなみに料飲店向けの瓶製品は通年熱処理となっていますので、瓶のサッポロを扱っているお店で飲めます。
秋の季節商品の中では、唯一キリンの秋味のみが熱処理となっています。今後どうなるかはわかりませんが、楽しみにしていても良いでしょう。
少し前に限定発売されていた復刻エビスも熱処理で、なかなか懐かしい味わいで、筆者にとってこれぞエビスというものでした。再復刻をお願いしたいところです。