「香の森」という名前を聞いたとき、どこか優しくて、静かなイメージが浮かびませんか? このジンは、まさにそんな印象そのままの味わいを持つ一本。製造元は、あの養命酒製造。ちょっと意外に思われるかもしれませんが、実は漢方で培った知見と、長野・駒ヶ根という自然豊かな土地が、このジンの個性を作り上げています。
森の中にいるような、深く静かな香り。それが「香の森」の真骨頂です。
今回は、そんな一風変わったクラフトジンの魅力を掘り下げてみましょう。
目次
【森林浴を閉じ込めたようなボタニカル構成】
「香の森」の主役は、なんと言ってもクロモジ。日本の山林に自生する落葉低木で、和菓子の楊枝に使われることで知られています。清涼感のあるウッディな香りが特徴で、「和のハーブ」と言っても差し支えない存在です。
このジンでは、クロモジの“葉”“細枝”“太枝”を部位ごとに蒸留し、異なる香りの層を作り出しています。そこにジュニパーベリーや柑橘類、スパイス、さらには薬草的なハーブなど、合計20種類のボタニカルを使用。仕込み水には中央アルプスの伏流水を使用し、清らかさとまろやかさを引き立てています。
味や香りの骨格はしっかりとあるのに、決して押しつけがましくない。まるで自然の空気をそのまま瓶に詰め込んだような、繊細で丁寧なつくりです。
【一杯の中で移ろう、香りと味のグラデーション】
グラスに注いだ瞬間から、香りがふわりと立ち上がります。最初に感じるのはクロモジの爽やかなウッディ感。それに続いて、ほんのりと甘い柑橘の皮、そして奥のほうからシナモンや山椒のような温かいスパイスが顔を出します。
口に含むと、フルーティな甘さとともに、ハーブのような苦味や複雑な風味が広がり、飲み込んだ後にも鼻腔に残る香りの余韻が心地よい。時間の経過とともに、香りの表情が変わっていくのも魅力のひとつで、飲み飽きることがありません。
個人的にはロックやストレートがおすすめですが、ソーダ割りも非常に相性が良いです。非常に濃い味わいなので、トニックウォーターでなくても、心地よい苦味を感じることができて満足感があります。ライムや柚子の皮を軽く絞って加えると、さらに奥行きが出て、まさに“飲む森林浴”と呼びたくなる仕上がりになります。
【まとめ:自然と向き合う時間に寄り添うジン】
「香の森」は、華やかさで勝負するジンではありません。けれど、だからこそ、じっくりと向き合いたくなる一本です。和の感性に寄り添った香りと味わいは、日常の中の“静けさ”を大切にしたい人にぴったり。仕事終わりの一杯や、休日の昼下がり、あるいは焚き火を囲んだ夜に。自分だけの時間をそっと彩ってくれる、そんな存在です。
700mlで5000円前後と、クラフトジンとしては標準的な価格帯ですが、品質や体験としての価値を考えれば、むしろコストパフォーマンスは高いと感じます。飲み手の五感を静かに刺激する、唯一無二の国産クラフトジン。
皆さんもぜひ、試してみてください。