近頃、ワイン好きの方とお話する度によく聞く言葉「(ヴァン)ナチュール」。ナチュラルワイン、ヴァン・ナチュール、ビオワイン、自然派ワイン…さまざまな呼ばれ方をしているので、耳にしたことがある方も多いと思います。いわゆる、ブドウの栽培を自然な手段にこだわり、醸造の過程においても酸化防止剤などの添加物を加えない(もしくは極力減らす)ワインの総称だとか。さらに、カラダに優しく、二日酔いになりにくいという噂が巷では語られています。
一方で、ナチュール=不味い! という声も。実は、私もナチュールやビオはあまり選ばないワインライフを送ってきました。
でも、ナチュールを選べないのはナチュールを知らないからかもしれません。それならばと、ヴァン・ナチュールをメインに取り扱うワインショップ、I.N.U.winesが主催する勉強会に参加しました。
目次
ナチュールの定義とは
結論から申し上げます。ナチュールの明確な規定は、現段階ではありません。
I.N.U.winesでは、「ナチュラルワインとは、原材料が葡萄のみ。極少量の亜硫酸(酸化防止剤)以外の物質は一切添加されていないもの」と定義して選んでいるそうです。
ワインはその品質を担保する目的で、生産国ごとに非常に詳細なワイン法が定められています。そのなかに、わかりやすくナチュールを規定するような内容は、現時点ではどの国においても盛り込まれていないそうです。しかしながら、ラベルからの判断が非常に困難なことは、どの国でも問題になっていて、正式なガイドラインが存在していないため、各国の有志や先駆者達が生産者同士の組合を結成する動きがフランスやイタリアなどでも目立ってきています。
逆にオーガニックワインはナチュールと比較すると、有機農法に関する認証団体がEUやアメリカにも存在して、その認証がより明確になっている反面、添加可能な物質は実に70種類にも及ぶそうです。この許されている添加物の多さがナチュラルなワインとの大きな違いだと言えます。(ちなみに、ワインに添加できる成分や上限量はワイン法で定められており、身体に悪い影響を与えることなく、ワインの品質を安定させる役割があります。添加物=悪ではありません。)
また、後述しますが、またナチュールを語る上で欠かせない「ビオディナミ農法」に関しては、認証団体が多く存在しているので、I.N.U.winesからのアドバイスとして「その認証団体名やロゴマークなどを知っておくと、ナチュールを判別する際に大きな手助けとなるはずです。我々がナチュラルワインと呼んでいるワインの生産者でビオディナミ農法、及びそれに近しいものを採用していない生産者はほぼ存在しないからです」とおっしゃいます。
ナチュールを安心して楽しむには、生産者を知り、栽培方法から醸造方法までを知っているお店がセレクトしたものを選ぶのが間違いなさそうです。
なぜ、ナチュールが注目されるのか
本来、ブドウ栽培も含めた農業は自然相手の作業なので、気象状況の影響を受けやすく、豊作があれば不作もあるものです。しかし、化学肥料や農薬の登場により、農法が発展し、作物の品質と生産量を安定させることができるようになりました。ここ50年くらいのことだそうです。これにより、安定した価格で安心安全のワインを大量生産することができ、ワインを商業ベースで安定させることに成功しました。しかし同時に、これらのワインからはその土地ならではの作物の個性や土壌の特徴というものを感じにくになってしまいます。
ワイン造りの歴史がはじまったのは、いまから8000年前ともいわれています。当然、そのころには農薬も肥料もありません。世界最古のワイン生産国といわれるジョージアでは、収穫したブドウを、果皮も軸も一緒にアンフォラと呼ばれる甕でつぶして、自然の酵母だけで発酵させていました。ジョージアは最近話題になっているオレンジワイン(アンバーワインとも言います)の発祥の地でもあります。
また、仏ブルゴーニュで最も偉大な白ワインの作り手と言われる、超有名ドメーヌである「ルフレーブ」でも、三代目当主のアンヌ・クロード・ルフレーブ女史が、1990年にドメーヌ経営に参画し、ビオディナミ農法によるブドウ栽培を実践しました。ビオディナミ農法とは月齢周期にしたがって栽培作業を進める有機農法・自然農法のひとつである循環型農業です。農薬や化学肥料を一切使用せずに、畑の土壌そのものを活性化させることで、健康的なブドウ収穫することを目指します。
はたして、彼女が生み出したワインは先代たちのワイン以上の評価を集めることとなりました。以降、土地の個性やブドウ本来の魅力を引き出したワイン造りに多くの生産者が軸足を移すようになりました。
つまり、ナチュールのワイン造りは原点回帰の作り方なのです。
ちなみに、ナチュールは醸造過程においてもなるべく手を加えないよう、酸化防止剤であるSO2(亜硫酸)を加えない、もしくはごく最小限にとどめて生産します。そのため品質が安定しなくなり、美味しいワインを作るのは通常よりも難易度が高くなります。私が、ナチュール=不味い!と思い込んでいた原因のひとつはここにあるかもしれません。
今回飲んだナチュール
※ワインの説明はI.N.U.winesのオンラインサイトより転載しています。
●ジョセフ クローミー ペティアン 2019
産地:オーストラリア/タスマニア
品種:ピノノワール
昔ながらの醸造法にて造られた、単一畑のピノノワール100%、ペティアン・ナチュール、スパークリング。野生酵母、ノンフィルター、一切の添加物なし、酸化防止剤無添加。少し濁ったピンク色な色調で果実味が強く複雑な香りがあります。ジューシーな味わいの中には濃い梅酢感や新鮮な豆そして果熟したりんごが感じられる。野生酵母による自然醗酵をステンレスタンクで始め、最終的には瓶内で終了し、酵母は澱と共に沈みます。良く冷やして飲みことと抜栓前には瓶を立てて澱を沈めて飲むことをお勧めします。生産本数はわずか600本の超レアなボトル。
●ポデーレ・ラ・チェッレータ マティス 2017
産地:イタリア/トスカーナ
品種:ヴェルメンティーノ
1/2 ステンレスタンク発酵。残り 1/2 古トノーと古小樽にて発酵・熟成 。
●マルセル・ラピエール レザン・ゴーロワ 2019
産地:フランス/ボジョレー
品種:ガメイ
透明感のあるルビー色。フレッシュな苺をギュッと詰め込んだような香り。時間とともにイチゴジャムの様な凝縮した香りに変化していきます。2018ヴィンテージはカラメルっぽさも感じるほど果実が凝縮していましたが、2019ヴィンテージは強烈な果実の凝縮を酸が支えているスタイル。口に含んだ瞬間、瑞々しいフルーツや口の中で赤い果実を潰したようなフレッシュでジューシーな果実味が口内で溢れ、思わず顔が緩んでしまいます。果実味の質感も直線的ではなく、丸い果実味で、酸の下支えもあり非常にエレガント。2018ヴィンテージがあまおうだけで造ったイチゴジュースと例えるなら、2019ヴィンテージはとちおとめも使ってバランスとエレガントさを際立たせたようなスタイルになっています。真の意味で透明感の有る丸い液体と言えるレザン・ゴーロワ。
<取材協力>
I.N.U.wines https://inuwines.net/