ここ2~3年で、家でもっともよく飲むようになったお酒は、白ワインかもしれない。甘いのからドライなものまで種類が豊富であり、赤ワインほど料理を必要とせずともさらりと飲める。新世界のワインはお手頃な値段のものが多いということもあり、オンライン飲みなどではつい1本用意してしまう。
とはいえ、さらりと飲める種類だけではないのが面白いところ。今回は先日飲んで驚いた、食用ブドウを使った甘口白ワインにスポットを当てていきたい。
【1杯目】「サンタアリシア レイト・ハーベスト」
チリの白ワイン、といえばスーパーで安く売っているようなワインを思い浮かべがちだが、これはそれらとは大きく異なる造りとなっている。
まずはブドウの品種がマスカット・オブ・アレキサンドリアであるということ。食用ブドウの一種でもあるこの品種は、マスカットの一種であるものの、日本で「マスカット」といったらこれを指すというくらい一般的なもの。つまり、普段デザートで食べているマスカットでワインを造っているということだ。
そして、そのマスカット・オブ・アレキサンドリアを100%使って造られた貴腐ワインであるということ。一般的な貴腐ワインとは少し造り方も味わいも異なるが、希少性の高いワインであることは間違いないだろう。
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貴腐ワインとは本来、貴腐ブドウと呼ばれる非常に糖度の高いブドウを原料に造られた甘口ワインのことを指す。
ではこの貴腐ブドウは、始めから貴腐ブドウだったのかというとそういうわけではなく、もとは辛口ワインに使用されているブドウと同じもの。
ブドウの果皮に感染する特殊なカビの働きに加え、日照が多く乾燥した天候が続くことでブドウ中の水分が蒸発していき、収穫時には甘いエキスがしっかり凝縮した貴腐ブドウになるのである。
ちなみに、その特殊なカビにさえ感染すれば貴腐ブドウになるのかということ、そう簡単な話でもない。
そもそも、この菌は果実や花弁、葉、茎などを腐敗させてしまう働きがある。つまり、本来ブドウにとっては有害だが、「朝に霧が出て菌の生育に都合の良い温度・湿度になる」、「日中は晴天で乾燥し、水分の蒸発が進行する」など、特定の条件を満たす地域でだけブドウの貴腐化が進むのだ。こうした条件で少なくとも1ヶ月以上の日数を重ねる必要がある、となれば、このブドウがどれほど貴重かある程度は伝わるだろう。
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そんな「サンタアリシア レイト・ハーベスト」だが、レイトハーベストの名の通り、遅摘み葡萄で作ったワインとであり、厳密には貴腐ワインとは異なる。ただ、デザートワインとも呼ばれる貴腐ワインとはまた違った甘さで非常に飲みやすい。貴腐ワインの混ざった甘口の白ワインといった味わいで、微かにマスカットの上品な香りを感じられる。調和のとれた口当たりで、さらりと500mlを一気に飲めてしまうだろう。
良いワインに出会うと、良いチーズや肉魚も欲しくなり、良いグラスも欲しくなる。酒飲みの欲求はキリがなく、だからこそ探求しがいがあるとも言える。今度はまた、しっかりした貴腐ワインを味わってみようか。