「シノニム」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。英語で書くと“synonym”となり、同意語とか類義語を意味します。同じか似たような意味を持つ違う言葉ということですね。
この言葉がワインにおいて使われる場合、主にひとつの品種の違う呼び方を指します。別名と書いた方がわかりやすいでしょうか。
実は同じぶどう品種でも、植えられている国や地域、そして言語の違いなどにより、違う品種名を持つものがかなりあります。
目次
国内の地域による呼び方の違い
同じ国内でも、植えられている地域により呼び方が変わります。
~フランス~
シャルドネ:ムロン・ダルボワ、ボーノワ
ユニ・ブラン:サン・テミリオン
ピノ・ブラン:クレヴネル
ソーヴィニヨン・ブラン:ブラン・フュメ
ミュスカデ:ムロン・ド・ブルゴーニュ
ピノ・ノワール:グロ・ノワリアン
シラー:セリーヌ
カベルネ・フラン:ブルトン
マルベック:コット、オーセロワ
~イタリア~
フリウラーノ:タイ
ネッビオーロ:キアヴェンナスカ、スパンナ、ピコテンドロ
サンジョヴェーゼ:ブルネッロ、プルニョーロ・ジェンティーレ、モレッリーノ
ネーロ・ダヴォラ:カラブレーゼ
ボナルダ:クロアティーナ
ドルチェット:オルメアスコ
~スペイン~
マカベオ:ヴィウラ
カリニェナ:マスエロ
テンプラニーリョ:センシベル、ティント・フィノ、ウル・デ・リェブレ
国や言語による違い
国家間では、単純に言語による違いや、まったく別の名称になるケースもあります。
- ピノ・ノワール=ピノ・ネロ、シュペート・ブルグンダー、ブラウブルグンダー
- ピノ・グリ=ピノ・グリージョ、ルーレンダー、グラウブルグンダー、スルケバラート
- ピノ・ブラン=ピノ・ビアンコ、ヴァイスブルグンダー、ピノ・ビエリ
- サンジョヴェーゼ=ニエルキオ
- ガルナッチャ=グルナッシュ、カンノナウ
- シラー=シラーズ
- シュナン・ブラン=スティーン
- ユニ・ブラン=トレッビアーノ
- プリミティーヴォ=ジンファンデル
- モナストレル=ムールヴェードル、マタロ
- テンプラニーリョ=アラゴネス、ティンタ・ロリス
- カリニェナ=カリニャン
- マカベオ=マカブー
- ソーヴィニヨン・ブラン=フュメ・ブラン
- マルヴァジーア=マルヴォワジ、マルムジー
- ミュラー・トゥルガウ=リヴァーナー
上に挙げた例はほんの一部で、まだまだたくさんあります。
地域によって変わってくるというのは、やはりフランスやイタリアなどの伝統的産地に多く、国際品種名として認められた名前がある一方で、その品種が長く使われてきた土地において、それぞれ自然に根付いたローカルな呼び方が、今もなお残っているということでしょう。
国家間のちがいにおいては、ピノ・ノワール→ピノ・ネロやガルナッチャ→グルナッシュなど、単純に言語の違いであるだろうことがわかるものから、まったく形を変えてしまっているものもあります。
後者の方はなかなか理解がしづらいですが、例えばイタリアのプリミティーヴォとアメリカのジンファンデルなどは、もともと違う品種として植えられていましたが、近年盛んにおこなわれているDNA鑑定などにより、実は同じ品種だったということがわかりました。
経緯はわかりませんが、イタリアからの移民が多いアメリカに、イタリアの品種があったとしても不思議はないですね。
そのような例は他にもあり、最近ではイタリア・マルケ州のヴェルディッキオが、同ヴェネト州のトレッビアーノ・ソアヴェと同一ではないかということがわかってきました。そうなると、フランスのユニ・ブランとも同一ということになります。
このように、品種によっては地域間の違いと国家間の違いを両方持っている品種もあり、これらを覚えるのはなかなか大変で、特にソムリエやワインエキスパートなどの資格を目指す人にとっては悩みの種になります。
一方で、言語による表記や発音の違いを考えてみたり、まったく違う名前を持つ同一品種の飲み比べなんていう楽しみ方もできます。
みなさんも今晩の一本の“シノニム”を調べてみてはいかがでしょうか。