もう一年くらい「緊急事態宣言中」という言葉をエッセイに入れている気がするけど、これを書いている9月下旬現在も継続して宣言中。宅飲みをすることもあれば、時間を決めてお酒を出している店に行ったりもする。
お酒との付き合い方も大分変わったけど、この時期に楽しみにしている季節酒は変わらず出荷されるわけで、今回は多くの人が耳にしたことがあるであろう「ひやおろし」を楽しんでいく。
目次
1杯目
和歌山 平和酒造 「紀土-KID- ひやおろし」
西日本の食中酒ではトップクラスの安定性だと思っているので、自分のエッセイにはよく登場する紀土。
「紀州の風土」という意味だけではなく、「KID(子ども)」のような天真爛漫さもイメージして造っている日本酒だ。
平和酒造の社長は京都大学を卒業後に、東京のベンチャー企業を経て実家の酒造に戻ってきたという異色のキャリアで、大卒のみを採用するなど、組織作りにも力を入れている。
米とフルーティな果実が合わさった、熟成感を伴う香りが特徴的。
口当たりは少しだけ辛め。でも口のなかで常温になるにつれまろやかになっていく辺りは、さすが西日本屈指の食中酒だ。
キレも抜群。飲んでしばらくするとしっかり舌と喉が戻る。一杯目に飲みやすいタイプのひやおろし。
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そもそも「ひやおろしと」とは商品名ではなく、お酒の製法・状態を指す言葉である。
通常、日本酒は冬に醸造されて絞られたあと、劣化を防ぐために二度、「火入れ」と呼ばれる加熱処理が行われる。
ひやおろしとは、この二度のうち、本来は出荷の前に行うはずの二度目の火入れを行わずに卸される日本酒のことを指す。
大体秋ごろに出ることが多いが、日本酒の温度で常温の意味を指す「冷や」の状態(=加熱しない状態)で「卸す」ことから、こう呼ばれるようになったらしい。
一度火入れを加えた後に、貯蔵庫で夏の間に寝かせてあるため、時間によって程よく熟成されているのが特徴。絞りたての粗さが取れて深い味わいを楽しめる、秋の贅沢な日本酒だ。
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2杯目
岩手 川村酒造 「酔右衛門 秋桜(コスモス)」
酒蔵がある岩手県石鳥谷町は、日本酒を造る杜氏集団の中でも最大級の勢力である「南部杜氏」のふるさとらしい。
この地から毎年、南部杜氏や蔵人が全国の酒蔵へ散らばっていき、一冬酒造りをして春に帰ってくる。川村酒造の近所にも名立たる杜氏が暮らしているとのこと。
口に含むと、なめらかなやさしい口当たり。熟成感が薄いからか、線は太くなく、万人が飲みやすい印象。
飲み込むまで、終始カドも雑味もなくてピリリと辛さと旨さだけが響く良い酒。
燗酒にしたら、甘さも引き立ってより柔らかいお酒になるだろう。
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ひやおろしを飲んだことで、あっという間に秋が来たと思い知らされた。
気付けば今年もあと数ヶ月。宣言が明けるのを待ちつつ、季節を感じるお酒に浸る。