カリフォルニアワイン協会(CWI)は、2025年3月4日に東京・丸の内のパレスホテル東京、同月6日に大阪市北区のヒルトン大阪で、「カリフォルニアワインAliveテイスティング 2025」を開催しました。
今年のテーマ産地は、カリフォルニア南部にあるサンタバーバラAVAです。会場では、「サンタバーバラ・カウンティ 〜2000万年の時が織りなすワイン産地〜」と題されたセミナーが開催されました。今回は、セミナーの内容から、サンタバーバラの象徴的なワイナリーであるオー・ボン・クリマのパートをご紹介します。
登壇したのは、オー・ボン・クリマを設立したジム・クレンデネンさんの長女であり、現在のオーナーの1人であるイザベル・クレンデネンさんです。
▲右がイザベル・クレンデネンさん、左が弟のノックス・クレンデネンさん
目次
イザベルさんが語る「オー・ボン・クリマ」
日本にも住まいがあるイザベルさんは、セミナー中、主に日本語で話されました。しかし、2021年に亡くなった父ジムさんの話になると、「辛いので」と英語で語っていたのが印象的でした。
オー・ボン・クリマは、1982年にジム・クレンデネンさんが設立したワイナリーです。1970年代、ジムさんが大学4年生の時にヨーロッパを訪れ、「ワインメーカーになりたい!」と思ったのがきっかけだそうです。その後、それまでしていた弁護士の勉強を辞め、1年間でオーストラリア、ブルゴーニュ、カリフォルニアで収穫を経験し、オー・ボン・クリマを立ち上げました。
「オー・ボン・クリマの目的は、ブルゴーニュスタイルのワインをカリフォルニアで造ることです」とイザベルさんは語ります。彼らにとってブルゴーニュスタイルとは、①樽で熟成する ②酸が高い ③アルコールは高くない ④食事と共に楽しむ、ということを意味しています。オー・ボン・クリマの三角形のロゴには、バランスの良いワインを造りたいという願いが込められています。
2021年に急逝されたジム・クレンデネンさんは、ワイナリーの精神的な支柱であり、ピノ・ノワールとシャルドネの先駆者として、サンタバーバラの造り手から尊敬を集める存在でした。現在は、娘のイザベルさん、息子のノックスさん、そしてワインメーカーのジム・エーデルマンさん、セラーマスターのエンリケ・ロドリゲスさんの4人がオーナーとなり、ジムさんのレガシーを受け継いでいます。
2024年には、ノックスさんはニュージーランド、ブルゴーニュ、そしてオー・ボン・クリマで収穫を経験しました。「まだワインメーカーのアシスタントのアシスタント的な存在です」だそうですが、「父のように、弟はレガシーを続けます」とイザベルさんは話していました。
テイスティングされたワイン
セミナーでテイスティングされたのは、「オー・ボン・クリマ ピノ・ノワール ノックス アレキサンダー 2020」です。
Au Bon Climat, Pinot Noir "Knox Alexander", Santa Maria Valley 2020
生産者:オー・ボン・クリマ
産地:サンタ・マリア・ヴァレー
品種:ピノ・ノワール
アルコール度数:13.5%
参考小売価格:オープン価格
このワインには、ジム・クレンデネンさんの長男・ノックスさんの名前が付けられています。サンタ・マリア・ヴァレーで一番有名なビエンナシード、その隣にあるランウェイ、そして自社畑のル・ボン・クリマの3つの畑のブドウを使用しています。
テイスティングした印象は、赤い果実や紅茶のニュアンス、スパイス感があって複雑かつエレガント。幅広い食事に合わせたくなるワインだと感じられました。
オー・ボン・クリマには、イザベルさんとノックスさんそれぞれの名前が付いたワインがあります。これらのワインについてイザベルさんは、「イザベルは、サンタバーバラのブドウ本来のおいしさが味わえるワイン」と説明し、ノックスについては、「ホームブレンド(ワイナリーの理想を表現したワイン)です」と説明しました。
このワインは、果汁だけではなく30%で茎を含めた発酵(全房発酵)を行っています。熟成には、ロマネコンティも使用するブルゴーニュの著名な樽メーカー、フランソワ・フレールの新樽を100%使用し、旨味を引き出すために澱と共に22ヶ月間熟成させています。新樽ですが、樽の風味が穏やかなため、強いスモーク香は感じられません。
厳選された最良の樽から瓶詰めされており、2020年はブドウの出来が良かったため、多くの樽の中から最高のものが選ばれ、ベストヴィンテージの一つとされています。
テロワール由来のスパイス感
イザベルさんは、「このワインのスパイス感は、樽からくるものではなく、畑の土壌などのテロワール由来のものです。畑のあるサンタ・マリア・ヴァレーは、スパイスと土の味が特徴です」と、このワインを説明していました。
前回紹介したブリュワー・クリフトンもスパイス感が特徴でした。サンタ・リタ・ヒルズのブドウは、赤い果実の風味と程よいミネラル感があり、茎と共に全房発酵することでスパイスの風味が加わります。一方、サンタ・マリア・ヴァレーのブドウは土壌由来のスパイス感があるため、全房発酵をしすぎてしまうとバランスが悪くなってしまうそうです。ノックスアレキサンダーでは、基本的には全房発酵は基本的に行わず、行うとしても30%以下に抑えています。
今回のセミナーとテイスティングを通じて、サンタ・マリア・ヴァレーのテロワールが育むピノ・ノワールのエレガントさと複雑さ、オー・ボン・クリマが追求するブルゴーニュスタイル、そして創業者ジム・クレンデネンさんのレガシーを継承しようとする現オーナーたちの情熱を感じることができました。テロワールの個性を尊重しつつ、オー・ボン・クリマらしいワイン造りを続ける姿勢で、今後もサンタバーバラワインの多様な魅力を世界に示してくれることでしょう。
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