世界最大級のナチュールワインイベント「RAW WINE TOKYO 2026」が、5月10日、11日に東京流通センターで開催されました。国内外から約70のナチュールワインと日本酒の造り手が集結し、造り手本人と交流しながら試飲を楽しめる2日間となりました。
この記事では、日本では出会うことがほぼ困難なカリフォルニアの名高いナチュールワイン生産者、Clos Saronのブースで創業者のGideon Beinstock氏に伺ったお話を中心に紹介します。
目次
創業者が語るClos Saronとは
Clos Saronは生産量が少なく、日本への輸入も限られているため、日本で実際にワインに触れる機会はほとんどありません。しかし、世界中のワイン愛好家や造り手から高い評価を受けており、RAW WINE設立者のイザベル・レジュロンMWも注目する存在です。Beinstock氏から、Clos Saronの哲学について話していただきました。
Clos Saronの特徴を教えてください
Clos Saronは約30年前に始まりました。カリフォルニアのシエラ・フットヒルズ地域の最北端に位置し、非常に人里離れた場所にあります。地質的にもこの地域全体とは異なり、シエラ・フットヒルズが花崗岩質の土壌で知られるのに対し、私たちの土壌は火山性で、日本に少し似ています。
その土壌は海底火山由来のもので、火山活動が空気ではなく水と接して冷やされた後に押し上げられたものです。シエラ・フットヒルズ全体が約1千万年の土壌であるのに対し、私たちの土壌は1億6千万年前のもので、地域の中でもはるかに古い一角に位置しています。こうした違いが、私たちのワインのスタイルがシエラ・フットヒルズでも少し異なる理由になっています。
私たちのワインは酸が高く、ストラクチャーがしっかりしており、非常に長く熟成します。白・赤・ロゼを問わず、何十年も熟成する力を持っているのが特徴です。
Clos Saronにとってのワインメイキング
ワイナリーでは極めてミニマルな手法をとっています。ナチュラルワインという言葉が登場するより前、15年前にそのムーブメントが始まる前から、私たちは同じ姿勢でワインを造ってきました。ワイン愛好家として、私が常に魅了されてきたのはテロワールの表現です。
私たちがワイン造りで行っていることは、その土地とブドウの本質をワインに捉えることだけ。それこそがワインにおける唯一無二の要素であり、それ以外のことは、お金や優れたチームを持つ人々のほうが上手にできるでしょう。しかし、畑とブドウそのものをワインにするのであれば、競争は存在しません。誰も同じものを造れないからです。
私はブドウを「自分の技術や才能で世界最高のワインに仕上げるための原料」とは考えません。ワイナリーに届くブドウはすでに完璧で、完璧なワインとしてグラスに入るために必要な情報をすべて持っています。その瞬間から先、私ができるのは減点だけで、加点はできません。
一般的なワイン造りでは、ブドウは原料としてワイナリーに届き、そこでワインが「造られ」ます。しかし私たちはワインを造りません。助産師のように、ただ見守るだけです。赤ちゃんが生まれるとき、主体は母親と赤ちゃんであり、助産師にできるのは支援だけ。それと同じです。
私は常に畑を理解しようとし、畑が「相性の良いブドウ」を教えてくれるのを待ちます。
人々が偉大なワインと考えるもの、たとえばブルゴーニュの名門ドメーヌ・ド・ラ・ロマネコンティを思い浮かべてください。その畑からピノ・ノワールを抜いてカベルネ・ソーヴィニヨンを植えたら、凡庸なワインになります。ボルドーの第一級格付けシャトーであるラトゥールの畑から、カベルネ・ソーヴィニヨンを抜いてピノ・ノワールを植えても同じです。偉大さは「場所」だけでも「ブドウ」だけでもなく、その両方が揃って初めて生まれます。理想的な組み合わせは結婚のようなもので、完璧な結婚は美しく、完璧でなければワインメイキングが必要になるのです。
ブドウに欠点があると、醸造家は酸やボディ、色などを調整します。これがワインメイキングです。しかし私たちはそれをしません。ブドウが完璧なら、何もする必要がないからです。
私たちのやっていることは非常にシンプルです。朝に行う工程は3つ。足で踏みつぶし、圧搾し、瓶詰めするだけです。低温浸漬もしない、長期マセラシオンもしない、何も加えない、何も取り除かない、計画もしない、澱引きもしない、濾過もしない。本当に何もしません。なぜなら、そうした行為はすべて「造り手自身」についてであり、「ブドウ」についてではないからです。
レジェンドから伺った貴重なお話
お話を伺いながらワインを飲むと、そのエレガントさや果実の存在感がより際立つように感じられました。お話からもワインからも、テロワールを大切にしていることが伝わってきます。
RAW WINE設立者のイザベル・レジュロンMWも、「ここだけは行っておいた方がいいブース」として名前を挙げるほど、信頼を寄せる造り手のClos Saron。アメリカ在住時にその存在を知った私にとって、レジェンドがたっぷりと哲学を語ってくれた今回の体験は、RAW WINE TOKYO 2026でも特に印象的な時間となりました。
